#04 FEEL GOOD creation|玉井美由紀氏|CMFデザイナー

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玉井美由紀

Miyuki Tamai
株式会社FEEL GOOD creation代表取締役

CMFデザインをご存知でしょうか? Color(色)、Material(素材)、Finishing(加工)。3つの要素を掛け合わせて、ものの表面を演出するデザイン、それがCMFデザインです。昨今、スマートフォンのような凹凸の少なく滑らかで、色や触り心地のバリエーションとクオリティーを尊重される商品が増える中、CMFデザインへの需要は増してきました。

そんなCMFデザインの専門家として、2007年からco-labをご利用いただいているクリエイターが株式会社FEEL GOOD creationの玉井美由紀氏です。入居当初、まだ誰も知らないCMFデザインを専門として起業し、6年間で事業を拡大、今年度はMaterial ConneXion(以下、マテリアル・コネクション)の日本部門を受け持つまでに成長されました。

そんな玉井氏から、CMFデザインの話やco-lab入居生活の話、そしてマテリアル・コネクションの話を伺っていきます。

インタビュー:co-lab企画運営代表・田中陽明
構成:WEB PR・新井優佑
2013.6.11

CMFデザインは表面の質感を高められるだけでなく、
プロジェクトメンバー間の共通認識を束ねることもできる

田中:CMFデザインについて、教えていただけますか?

玉井:サーフェイス(表面)をデザインすることです。表面は、色(Color)と素材(Material)と仕上げ(Finishing)の3要素でデザインされます。表面のデザインを高めることは、美しさだけでなく、商品の保護やコンセプトの表現にも関わります。日本ではまだまだ認知されていませんが、ヨーロッパでは20年以上前から一般的になっているデザイン分野なんです(詳しくはFEEL GOOD creationのウェブサイトをご参照ください)。

田中:現在ご一緒している建築プロジェクトでも、CMFデザインを担当していただきました。CMFデザインを取り入れることで、表面のクオリティーが高まるだけでなく、プロジェクトメンバー間のコミュニケーションが円滑になったことは驚きでした。

玉井:言葉や数字でしか伝える手段がない中に、雰囲気というか、世界観によって感覚の共通認識を持てることがメリットになったのかもしれません。写真を一枚出せばみんなが同じ共通認識を持てるのかと言ったらそうではありませんから、共通認識を持つためのノウハウを含むCMFが役に立って嬉しいです。

田中:理論的な認識と、視覚的な認識とを並行して走らせることができるので、ズレをあまり起こさずに進行できています。新しい体験でした。

玉井:私も新しい体験がありました。このプロジェクトで建築系の方とはじめてご一緒して、みなさんの理解力や感覚共有の早さに驚いたんです。建築家の方はマテリアルを扱いますし色にも興味があるようなので、CMFとの距離の近さを感じました。

田中:ぼくも建築系の仕事をしているのでわかるのですが、建築家は個人で課題解決に取り組む職分なので知識を得る方法に長けています。だから、CMFを語ることのできる玉井さんの話を聞いて、さっと飲み込めたのだろうと思うんです。今回のようにCMFを建築に取り入れたケースは日本ではたぶん初ですよね。世界ではいかがでしょうか?

玉井:詳しくはありませんが、活用事例がなくはないというか。サーフェイス計画、マテリアル計画といったものが日本よりはコントロールされているようです。プロダクトデザインであれば、ヨーロッパの場合はインハウスデザイナーがいないので、デザイン事務所がたくさんあって、その中にCMFチームがあることは一般的です。

田中:これからデジタルファブリケーションの時代になっていき、ものを誰もが作れるようになります。じゃあ何を使って作るのかと考えたときに素材について知らないことに気づくと思うんです。CMFが一気に必要とされるような気がしています。

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玉井:本当に良いタイミングだと思っています。例えば、スマートフォンが普及していることも影響があります。昔の携帯電話はボタンがいっぱいあって、デザインできる部分がたくさんありました。でもいまはスマートフォンになり、アールや面くらいしかデザインできる形がありません。そこで、形のデザインにいままで5人掛けていたところを1人に減らし、残りは表面のデザインに回したほうがいいんじゃないかというようになってきました。表面のデザインには、色だけでなく触り心地や艶等、たくさんのニーズがあって、それと同じだけの仕事があります。

田中:時代の勢いと相まって、今回のプロジェクトのような委託案件が当たり前になっていくといいですよね。

玉井:本当にそう思います。日本でも、今回のプロジェクトのように外部デザイナーがクライアントからの委託を受けて仕事をする、海外と似たケースが増えてほしいです。

田中:co-labとしても、クライアントから個人クリエイターが委託を受けるケースを増やしたいと思っています。企業から見ると、個人に対して委託することに臆するというか、依頼相手が倒れた場合の不安があるようなんです。co-labが仲立ちをすることで、倒れてしまった場合に代わりのクリエイターを立てることができる状態を作って、クリエイターを下支えしたいと思っています。CMFデザインのように、他のクリエイターとコラボレーションすることで魅力の増す職業を支えていけたらと思っているんです。

co-labは育って出て行くためのステップという印象だった
でも、育っても残っていられる環境に進化していっている

田中:玉井さんには2007年からco-labを使ってもらっていて、もう6年くらいになりますか。わかりやすいくらい事業が大きくなっていくのを、端で見ていて感じていました。

玉井:そうですか? 最初があまりにもひどかっただけですよ(笑)。

田中:ここのところ、大企業のインハウスデザイナーが独り立ちする状況が多いんですね。そこでco-labのようなシェアオフィスに立ち寄る人が増えてきていて、そういう方々のお手本になるような人だと思っています。これから入居を考えている方にアドバイスはありますか?

玉井:co-labへの入居を希望する方には、大きくわけて2種類のクリエイターがいると思うんですね。メインは、フリーランスとして一人で活動したいと思っている方。わたしはどちらかっていうともう一方で、最初からチームを作って動くタイプでした。だから、多くの人の参考になるような話にはならないかもしれません。

田中:確かに、co-labを利用する方には個人レベルで仕事をするスタイルの人が多いですね。実際、「(co-labには残りたいけれど、)会社の規模が大きくなってきたので出なきゃいけない」と考える方もいます。その受け皿として、co-lab千駄ヶ谷には部屋タイプを作りました。

玉井:いままでのco-labは育って出て行くためのステップという印象がありました。でも、育っても残っていられる環境として部屋タイプができたのはいいですね。

田中:ちなみに、玉井さんがco-labに入ることを決めた理由は何でしたか?

玉井:一人で仕事をしていることはできないと思ったからなんです。周りに人がいて、ちょっとした雑談ができたり声をかけてもらえたりすることだけでも全然違いますから。私の場合、誰にも理解されていないCMFの仕事をゼロからスタートさせたので、周りから「何をやっているのかわからない」って言われ続けながら一人きりの事務所にいでもしたら、たぶん本当に精神的にまいっちゃっていたと思います。「おはようございます」とか「お疲れさまです」とか。挨拶を交わすだけでも心の支えになると思ったんです。

マテリアル・コネクションには毎月40~50個の新素材を展示
世界に10拠点、今年日本にもできるマテリアルライブラリー

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|玉井さんの扱ってきたマテリアルやプロダクト
|左下は玉井さんもカラーデザイナーとして参加した、
|co-lab内コラボレーション作品「TATAMO

田中:そんな玉井さんも、今年co-labを退会されます。マテリアル・コネクションの立ち上げを行うからですよね?

玉井:はい。日本写真印刷さんとわたしたちの共同で合弁会社を作り、運営していきます。マテリアル・コネクションはいま、世界に10拠点あるのですが、新しく設立する日本の拠点を受け持つことになりました。

田中:マテリアル・コネクションの展示物はどのように選ぶのですか?

玉井:毎月40~50個のマテリアルがニューヨークの本部から送られてきて、それを世界中の拠点で共有しています。マテリアル自体は各拠点で集めるのですが、それらをニューヨークに送り、審査を通してOKが出たものを展示しているんです。

田中:ライブラリー以外の機能もありますか?

玉井:日本独自のサービスを提供できたらいいなと考えています。例えば、本部から送られてくるマテリアルとは別に、日本の資材を集めた展示を併設したり、カフェルームを作ってお茶を自由に飲みながらマテリアルを見るようなことはできないかと思っています。ニューヨークの本部では、クリエイターの支援をするシェアオフィスやラボを併設したいという話があって、日本でもそういう展開が出来たらいいなと思っています。co-labと連携を取れるようなことができたらいいですよね。

田中:楽しみですね。(マテリアル・コネクションの小冊子に目を通しながら、)展示物がプロダクトデザイナー向けの選定に見えますが、利用者はどんな人が多いのですか?

玉井:事例としてわかりやすく紹介できるものがプロダクトなので、小冊子には車や靴が載っています。でも、会員には建築系の方が多いんです。他の分野と比べれば建築には自由度があるからなのかもしれません。

田中:日本でも活用してもらえたらいいですね。

玉井:そうなんです。これから経済が上向いてきて、建築が増えていって活用してもらえたらなと思っています。

田中:co-labは会社じゃありませんから、事務所が離れたとしても入居メンバーとの仕事を続けていけます。これからも宜しくお願いしますね。

玉井:こちらこそ、よろしくお願いします。今回ご一緒したプロジェクトのような、新しい仕組みや取り組みがもっと世の中の人に知っていってもらえたらいいですよね。

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(最後に)

玉井さんのような新しいジャンルで活躍している人をco-labは応援していきたいと思っています。一過性のものではなく、ちゃんとした文脈がある中でCMFデザインが芽生えていき、ムーブメントになる日が待ち遠しいです。
日本ではまだイレギュラーなケースではあるけれど、海外では定着している事例はCMFデザイン以外にもたくさんあります。
co-labでは、個々のクリエイターが自由に働ける環境づくりをして、玉井さんのように独立してから「自分の仕事」を手にしていける人を増やしていきたいと思っています。