対談・コラム
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#05 グラディエ|磯村歩氏|モビリティデザイナー

グラディエ代表・磯村歩さん(モビリティデザイナー)の写真

磯村歩
Isomura Ayumu
株式会社グラディエ
代表取締役
ディレクター
モビリティデザイナー
シェアライフコーディネーター

“地域との関わり”という、他のco-labとは異なる独自のキーワードを得て展開を遂げているco-lab二子玉川。

そこを拠点としている磯村氏は、パーソナルモビリティ(以下モビリティ)のプロダクトデザインと街づくりを視野に入れたモビリティの地域活用を進めていらっしゃいます。そしてシェアライフコーディネーターとして、国内外のつながりのある暮らしを紹介するウェブサイト「ユルツナ」の運営やシェアハウスの基本計画にも携われています。

ハードだけでなく、ソフトのデザインをすることでもたらされる変化と可能性について、磯村氏にお話を伺ってきました。

(インタビュー:co-lab企画運営代表・田中陽明|構成:ナレッジ・ファシリテーター 山崎美緒)
2013.07

インハウスデザイナーで培ったコミュニケーション力を生かし、人が集うco-labを通して新たな仕事へのつながりを生み出す

田中:磯村さんには、co-lab二子玉川がオープンした際に僕をインタビューしていただきましたよね。その時にco-labがどんな場所か知ってもらって、興味を持ってもらって、すぐに入会という流れだったかと思います。

磯村:コンセプトに共感して、早々に入会させていただきました。特にco-lab二子玉川がある「カタリストBA」は、多くの企業が集うクリエイティブ・シティ・コンソーシアム(以下コンソーシアム)の活動拠点でもあります。富士フイルムのインハウスデザイナーとして20年やってきた企業人としての経験が活かせるだろうと考えました。

入会後は「カタリストBA」のスタジオを活用としたコミュニケーションというか、きっかけ作りみたいなものを企画運営していきました。高齢化社会へ向けたデザインというようなテーマで、ワークショップを5回シリーズで企画したり、コンソーシアムが主催するワークショップに参加したりということを続けていました。そんな中で、たまたま以前一緒に仕事をしていた富士ゼロックスKDIの方と再会し、あるクライアントの仕事を一緒にやらないかということになった。それはこのco-lab二子玉川にいて、ここにいろんな人たちが集まるからこそ、生まれた出会いだと思います。

田中:偶発的ですけど、かなり必然的ですよね。co-lab全体を見ても、単なる偶発で入ってきている方というよりは、口コミだったり、入る時の必然性を感じて入られたりしている方が多いな、と思っています。co-labのシェアオフィスの形態って場所を提供するだけでなく、人とのつながりを重要視しているんですけど、そういうのって感じますか?

磯村:co-lab二子玉川は場所とコミュニティが同時進行でスタートしてますよね。もうここに入った時点でコンソーシアムのコミュニティがあって、そしてco-labのコミュニティがある。それぞれのコミュニティに属している、関わっている人たちが行き交う状態が自然に生まれる。確かに“たまたま出会った”というよりは、それぞれのコミュニティに共感する同じ志向をもった人たちが必然的に出会う場なのかもしれませんね。

co-lab二子玉川は、街に対して出来事を還元していけるコミュニティ

田中:磯村さんは「ユルツナ」の編集を通じてコミュニティの研究をされてますよね。そういう立場からここのコミュニティのあり方を見ると、より客観的に見れるんじゃないですか?

磯村:co-lab二子玉川は二子玉川という居住地域にありますが、これは働くコミュニティと暮らすコミュニティが重なりあうということ。

この構造はビジネスを生みだす上でも有効なんです。地域の人たちとコミュニケーションをとる時に「二子玉川ライズオフィス(co-lab二子玉川)で働いている」って言うだけで、ファーストコンタクトがとても柔らかくなるんです。働くと暮らすコミュニティが“二子玉川”というキーワードで重なり合う。いろんな場面で関係性を創ることがスムーズです。

田中:ここで働いて、ここに住んで働いてってなると、まさに地元の人ですからね。地元の人だからこそ、地域の関わり方も他とは大きく変わってくるはずです。co-labの存在価値もそこだなとずっと思っています。

磯村:今まで境界線があった“暮らす”と“働く”が、どんどん柔らかく混ざっていく。こうした混ざり合うバウンダリーや境界線みたいなところに、新しい価値が生まれるような気がしています。co-labには、そうした新しい働き方を実現するプラットホームになりうる可能性が大いにあると思います。

田中:ええ、そうですね。

“ステークホルダー=活動に関わる関係者全体”をデザインする

磯村:いろんなステークホルダーとの関係性を創り出そうという時に、そのプラットフォームとして、フューチャーセンターがあるとすると、それを運営するディレクターは、フラットな関係性を持ったバウンダリーにいる人たちのような気がします。co-labにいるクリエイターって、企業との付き合いもあるし、地域の人との付き合いもあるし、様々なステークホルダーの中間に位置しながら、仕事をしていると思う。フューチャーセンターもいろんな地域にあるけれども、co-labもいろんな地域にあれば、地域のステークホルダーを繋ぐハブになるはず。それは街づくりの中核にもなりうる可能性を持ってると思います。

田中:ステークホルダーの関係性のデザインに注力すると、ものごとが動くと思うんですが、磯村さんは経験的なところから、そこがやっぱり重要なことだと思われているんですか。

磯村氏がデザインしたモビリティ「gp1」の写真
|磯村氏がデザインしたモビリティ「gp1」

磯村:例えばモビリティって、ハードだけを考えていてもダメで、受け入れる地域側に、そのモビリティに対するリテラシーやマナーが醸成されていないと上手くいかない。最悪、衝突事故など不幸なことも起きかねない。だからモビリティのデザインというのは、形を考えることに加えて、地域と共に、それをどうやって活用していくのかを考えていかなければならない。そういう包括的な取り組みをしていかないと、本質的な問題解決にならない。だから、私は「gp1」というモビリティのデザインもしながら、モビリティをテーマにした「モビリティフューチャーセッション」など地域との関係性づくりも同時に進めています。

「モビリティフューチャーセッション」の様子写真
|「モビリティフューチャーセッション」の様子

田中:ピープルデザインの活動も一緒にやられているのも、関係性が大事だっていう考え方を、街として作っていこうっていうことですもんね。

「モビリティの未来」展示の写真
|「モビリティの未来」展示

磯村:僕がピープルデザインで関わったのは、「モビリティの未来」というモビリティとファッションを組み合わせた展示会だったんですが、通常、電動車椅子などの展示会だと当事者である障がい者しか来場しない。それだと福祉が一部の人のものに留まってしまう。でも福祉の意味って“社会参加の権利を等しく受ける”ということで、全ての人にとって大切なもののはず。だから障がい者と健常者が一緒に見にいきたくなるもので、混ざり合う場を作っていくべきだと思ったんです。それで、モビリティとファッションという一見異質なものを混ぜた企画をして、モビリティ、障がい者、健常者との関係性を変えることにトライしました。

田中:もともとはプロダクト出身で、関係性のデザインということにも活動領域が広げられていて、結構珍しいタイプの方ですよね。

磯村:珍しいよね。

田中:あんまりいないですよね。ひとつのものを完成させるために、そのユーザー側のこともちゃんと把握して、ユーザー側に自分が作ったものを有意義に使ってもらうために、その人の行動とか考え方も変えてこうって気持ちになっている。でもそこまで踏み込むプロダクトデザイナーはほとんどいないですよね。

磯村:プロダクトデザイナーとして、スタイリッシュなものを作る欲求もあるんだけど、でもそれがどこに向かってるかっていうことも同時に気になるんです。“何のために僕はこのディテールにこだわっているのか”、“それが社会にとって、どんな風に役に立つのか”が整理できてないと、僕的には一歩踏み出せなくて。そうすると自然と領域が広がってきた。

田中:そういうデザイナー、もっと増えてほしいですね。

磯村:クライアントと話しているとそういう人を求めているような気がしますね。発注者と受注者という関係性だとあんまりいいものは生まれなくて、もう少しお互いの領域に踏み込んで欲しいと思っているはず。それでこそいいモノができると思うし、そういう風に互いの領域がグラデーションのように重なり合う関係からこそ、イノベーティブなものができるような気がするけどね。

田中:企業とか個人の枠を超えて、ある程度、フリーに意見を言い合えるっていう状況設定をもっと大切にしていったほうがいいかもしれないですね。

磯村:地域っていうキーワードだと、比較的、受発注の関係性じゃなくて、自分事として仕事に取り組める。やっぱり地域の活動が自分の住むところに何かしら還元しうるっていうことがモチベーションになって、いろんなコラボレーションにフックがかかってくる。

田中:地域となにかやるって時に、いろんなスキルを持っている方がコミットしてやれると、二子玉川の今後の展開ももっと楽しみだなあと思っています。

地域の特性を生かしたモビリティが街に出ると、それは地域の誇りにもつながっていく

田中:「QUOMO」というモビリティによる街づくりにも関わってらっしゃいますよね。

磯村:欧州の多くの警察のパトロールに「セグウェイ」(電動立ち乗り型モビリティ)が活用されているのですが、住民から声をかけられるなど地域とのコミュニケーションを生み出しているといいます。つくば市(茨城県)でも防犯パトロールに活用していますが、周囲から「カッコいいですね」「すごいですね」など声をかけられ仕事のモチベーション向上になっていると。
コンソーシアムのプロジェクトである地域モビリティ検討コミュニティ「QUOMO」では、こうした低速域で走る“スローモビリティ”が地域の人々をつなぐ触媒になるのではないかと考えています。ひいてはそれが街の華やぎにもつながるはず。今は、モビリティの試乗会や様々なモビリティ活用の企画を進めています。

「QUOMO」で進められているモビリティの地域活用の写真
|「QUOMO」で進められているモビリティの地域活用

また別の切り口でモビリティを捉えると、電動化というのが大きなトピックだと思っています。電動モビリティは、バッテリー、タイヤ、フレームなどのパーツを組み合わせるだけで基本的にはできてしまう。内燃機関をもったモビリティではこうはいきません。今までの大企業による垂直統合型産業から水平分業型産業に移行していくわけですが、これによって、メイカーズムーブメントのような小ロットの設計製造による様々な提案が生まれるでしょうね。
 
そうすると、地域ごとでオリジナルのモビリティが生まれてくるはずだと考えています。その地域の環境にあったモビリティを、その地域の人たちでデザインし設計製造する。そして、それをその地域で活用するといったモビリティの地産地消が出来上がっていく。するとオリジナリティのあるモビリティが生まれ、イギリスのロンドンバスやロンドンタクシーのように、やがてそれは街の景観になっていくはず。地域の人たちの誇りにもつながるかもしれない。

これらの要素を統合的にコーディネートすることで、モビリティは単なる移動手段から、街づくりのツールにまで昇華する可能性が生まれます。こういうデザインが出来れば、結構おもしろい社会になるんじゃないかな。

田中:たしかにそうですね。それは本当にやりたいですね。

磯村:地域の資産にクリエイションで影響を与える仕組みをco-labが提供できれば、その地域で何かやりたいと思っている人たちが一歩踏み出す、いいきっかけ作りにもなるよね。

田中:また近々あらためて、本格的に企画会議をしましょう!

(最後に)
企業との関係性、地域との関係性、様々な関係性を意識してクリエイションを行っていくことが、これからはもっと重要になっていくかもしれません。

クリエイターのためのシェアード・コラボレーション・スタジオであるco-labでは、プロジェクトのコラボレーションはもちろん、オフィスをシェアすることで、日常的に様々な関係性が生まれ、刺激となっていくことも目的のひとつとしています。

ハードだけでなくソフトに対するデザインを私たちco-labも、より広くサポートしていきたいと思っています。