対談・コラム
Voice

#06 FabLab Shibuya|久保田晃弘氏、梅澤陽明氏、井上恵介氏、山本詠美氏(前編)

写真:FabLab Shibuyaの皆さん
■ 右から梅澤氏、山本氏、久保田氏、井上氏。

久保田晃弘、梅澤陽明、井上恵介、山本詠美
FabLab Shibuya

co-lab渋谷アトリエには、入会するクリエイターが共有している工房「co-factory」があります。その共同運営をしているのがFabLab Shibuyaの皆さんです。

入会メンバーでありながら共同運営者でもあるFabLab Shibuya。そんな彼らにだからこそ聞くことのできる、デジタルファブリケーション工房を持つco-lab渋谷アトリエ像は本当に魅力的でした。

2013年7月2日に行われたこの鼎談では、FabLabとco-labが手を取り合うことになった社会的必然性や、企業でも自宅でもない「第3の場所」を利用する働き方、そして第3の場所が企業とコラボレーションしていける未来像などが語られました。「これからの働き方」についてワクワクすることができる内容になっています。

今回は、そんな鼎談を前編後編の2部構成でお届けします。

インタビュー:co-lab運営企画代表・田中陽明
構成:WEB PR・新井優佑

前編:2013.7.29
後編:2013.8.9

FabLab×co-labが誕生した社会的必然性は
ウェブの進化に伴う物理空間の価値の再発見にある

田中:以前、久保田さんから、FabLabやco-labのような場所が生まれたことには社会的な必然性がある、という話をお聞きしました。改めてその話をお伺いしたいと思って今日はこの場を設けさせていただきました。

久保田:そうですね。まずは時代の流れからお話しします。ぼくは90年代に起こったことがすごく大事だと思っているんですね。あの頃、さまざまな場所で「脱領域」であったり、「領域横断」ということが叫ばれていました。当時、東京大学にいたのですが、人工物工学研究センターでは「設計」をテーマに学科間を繋ぐ取り組みが行われていたんです。例えば、工学部には機械や電気のようにたくさんの学科がありました。それらの学科には共通して、設計に関する授業がありました。ただ、そうした横を繋げるテーマはあっても、横に繋がるための施設はありませんでした。

田中:場所がなかったんですね。

写真:東京大学人工物工学研究センター
■ 東京大学人工物工学研究センターの写真と、そこで行われていた有限設計ワークショップの風景

久保田:時を同じくして、企業側では異業種交流会が流行りました。バブルの崩壊が終わったころで、カフェバーのような場所(笑)でアフター5に多様な業種の人々が集まりはじめたんです。でも、それらもインターネットが普及した1990年代後半から2000年にかけて下火になっていきました。今またFacebookやTwitterの登場によって、それらが再燃し始めました。かつて流行った異業種交流会のような場の価値が再発見されたのだと思います。

田中:なぜ再発見されたのでしょうか?

久保田:アメリカのDIY誌『Make magazine』編集長のマーク・フラウエンフェルダーが、先日のメイカーカンファレンスでこう言っていました。「これからは物理的なメイカーズスペースを作っていくことが大事になる」と。ぼくもそう思うんです。異なる分野を一時面白いと感じても、実際、会社に帰ってしまえば、いつもの働き方に戻ってしまう。どんな組織にも、慣習という名の既成概念があるのです。90年代、異業種交流会が流行った時期はそうなりがちでした。「会社勤め」というように、会社にいることが中心だったからです。でも、いまはいろいろな人が転職や起業を考えるようになって、異なる働き方に目が向けられはじめました。そういった社会的な流れとSNSのような技術の波が出会うことで、かつての異分野交流が見直されたんだと思います。企業でもなく、自宅でもない、第3の場所が生まれ、そこでかつての異業種交流会のように、多様な人々が交流するようになりました。スターバックスもサードプレイスを謳っていますよね?

田中:ええ、オフィスでも自宅でもない第3の場所という意味ですよね。

久保田:FabLabやco-labのような場所こそが本当の意味での第3の場所なのだと思います。人と会うことができるし、情報交換もできる。さらにco-lab渋谷アトリエには工房があってものづくりもできる。ここにはオリジナルの価値があるんです。

写真:FabLab Shibuyaの久保田晃弘さん
■ 多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース教授で、FabLab Shibuyaメンバーの久保田晃弘さん。

田中:確かにそうですね。co-labは、場所をひとつのコミュニケーションツールとして利用してもらいたいと思っています。co-lab渋谷アトリエにはデジタルファブリケーション工房があることで、それを話題にして来客者と話すことができます。入会しているメンバーが工房を自慢して、にこやかになっている姿を見てきました。実際に利用しているわけではないとしても、仕事で使える工房を共有財産として、そこにみんなが集まっている雰囲気がとても良いなと思っています。

久保田:ぼくが大学を案内するときに、「ギャラリーがありますよ」って話すことと同じですね。ギャラリーを通して、美大のカルチャーを伝えることができる。文化の中で働いていることを示せるんです。FabLabも3Dプリンターがあるということが重要なのではなく、それを使う人たちが集まっていることに意味があります。それはco-lab渋谷アトリエ内にあるから実現しているんですね。FabLabから見たら、ものづくりだけでなく、広くデザインやテクノロジーに強い人たちがすぐそばにいることが大事なんです。「3Dプリンターを使ってみましょう!」という呼び掛けだけでは、自然な形でそういう人が集まる場所にはなりませんから。

企業と個人を繋ぐ架け橋になる
「第3の場所」とこれからの働き方

久保田:いま企業や大学は窮屈になっていると思います。企業はリストラを考えなければいけなくなっていますし、大学では少子化のため、学生の獲得を第一に考える必要が出てきました。でも、「せざるを得ないこと」から外れた業務こそが、本当は大事なんです。外れたことを行う余地が、昔はありました。そこからクリエイティブなものが生まれたし、イノベーティブなことができた。Research&Development(R&D)ができたんです。実験音楽や実験芸術があるように、実験授業や実験教育をやらなくちゃいけないと思うんです。例えば大学なら、その実験授業をco-labと一緒にやれるといいですね。

写真:ARTSAT project
■ こちらは、久保田さんがいま取り組まれている芸術衛星プロジェクト「ARTSAT project」のfacebookページ。このようなプロジェクトが、co-labのような第3の場所と、大学や企業のコラボレーションで誕生する日が待ち遠しい。公式サイトはこちら

梅澤:昔の企業や大学にはあった「外れた業務を行う余地」というのは、「チャレンジする余力」があったということなんでしょうね。でも、いまのアウトプットではイノベーションが起きなくなった。そこで多角的な視点でもって商品を捉え直してみて、新しい商品のあり方を考えていくようなことができたらいいですよね。例えば、先日行ったハッカソンのように、美大生には有り余っている力をその場で発揮してもらって、企業の方には普段できないことをやってもらう。美大生にとっても企業の方にとっても意味のあるイベントになりました。

山本:企業の方にとっては、学生と知り合う良い機会にもなっていた印象があります。あと、そのハッカソンにはOpenLabに来た方をお誘いしたんです。ハッカソンに合っているような感じがしたのでお声掛けして、最初は不安を感じていらっしゃったようなのですが、最後には、「面白かったので、また何かあったらぜひ」とおっしゃっていただけました。

田中:OpenLabは見学会のことでしたよね?

山本:はい、毎週水曜に開催している工房の見学会です。そこにお越しになった方をお誘いしました。

田中:co-labでは、企業内個人とフリーランスにどうやって接点を持ってもらおうか考えているのですが、ワークショップをすればいいのか別のコンテンツを考えるべきなのか、悩ましいところなんです。でも、そうやって見学会にお越しになった方を誘うのなら、一般の企業に勤めている方にもFabLabやco-labに来てもらいやすいですね。接点を持てる場として機能することもco-labの目標なんです。

梅澤:あとは定時後に来ることができる場所も大事だなって思います。OPEN LABにいらっしゃった方には、本業でセンサーの研究をしているのにも関わらずFabLabを使って、「自分の手がけたいセンサーを作ります」とおっしゃっている人がいるんです。

久保田:企業が、そういうリソースを活用しないのは、本当にもったいないよね。最近は企業自体の社会的な役割が変わってきているんだと思うな。企業は、個人ではできないことをやらなければならない。大きいものであったり、安全性の高いものを作るためには、企業の中で培われたシステムが必要だから。でも、そういうもの以外も必要とされてきている。だから、人件費を削減するためにリストラするんじゃなくて、例えば勤務を週3日にしてみると面白いんじゃないかなって思いますね。そして勤務日以外の日はco-labのような場所で自由に働くという、そのようなライフスタイルです。会社からの給与は半分になるけれど、残り半分の時間を使って自分で稼げる場をつくる。企業にとっても個人にとっても働くことへのハードルが低くなるように思うんです。企業側がそうした事例をサポートするようになると、早いんですけどね。

田中:いいですね。最近、大企業を出た方がco-labの見学にいらっしゃるケースが増えてきました。大企業で一流の仕事をなさってきた方々なんですが、フリーランスとしての働き方がわからないようで、何かをやろうにもできない人がいます。そのような方がco-labを利用しながら、フリーランスとして働くための準備をしていっていただけたらなと思っています。

写真:工房で作ったものを見ながらインタビュー(田中、久保田さん、井上さん)
■ 鼎談中は工房内で作ったものを見ながら行いました

後編はこちら