対談・コラム
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#06 FabLab Shibuya|久保田晃弘氏、梅澤陽明氏、井上恵介氏、山本詠美氏(後編)

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多様なクリエイターが集まる場所に必要な共通言語は
デジタルメディアと「とにかく作る」というスピリット

田中:FabLab Shibuyaの皆さんには、co-labの入会メンバーでありながら、併設されている工房の運営者をしていただいています。そのような関わり方を通して感じた面白味や今後やっていきたいことをお訊かせください。はじめにどなたから伺いましょうか。

梅澤:では、ぼくからいきますね。面白いと思うのは、入会している方々とのコラボレーションです。co-lab渋谷アトリエには多様な業種の方が入会されています。例えば、紙の仕事人・小杉博俊さん。小杉さんと話していると、紙の深い知識に触れることができて、どんどん新しいアイデアを共有できます。ぼくらは機材の扱い方やデジタル分野で起こっていることをお話しして、小杉さんからは素材のことや加工法を教えてもらうことができる。そのように、入会者の方々との知識の交換やアイデアの共有が自然と生まれるところがやっぱり面白いです。

山本:私も同じです。co-lab渋谷アトリエというシェアオフィス環境があるおかげで、工房の近くに自然と多様な人たちが集まっています。必ずしも、工房を利用してもらうわけではありませんが、何か情報交換ができる、誰かと繋がることができると思ってもらえる場所にしていきたいです。FabLab Shibuyaとして、それを演出する工夫をしていきたいですね。

写真:FabLab Shibuyaの入り口
■ FabLab Shibuyaの外観。co-lab渋谷アトリエの入り口近くにあり、この扉から出入りできます

久保田:そういう多様な人が集まる場所には、共通言語が必要だよね。

井上:確かにそうですね。ただ、いろんな業種の方がいても大部分の入会者にとって、例えばIllustoratorを使えるというような共通点はあります。Illustoratorが使えるのであれば、潜在的に言うと、レーザーカッターを使えるんです。だから技術面のハードルは高くありませんよ。

久保田:やっぱりデジタルメディアができたことが大きかったのかもしれないね。つまりは、Illustratorのようなツールが共通言語になりうるっていう話だから。あるいは、ブラウザが共通言語といってもいいのかもしれない。誰もが手にできるツールで、「あなたにも始められますよ!」という状況を共有すれば、次は自然と「じゃあ、どうやって作ればいいの?」というモードに移っていく。だから一緒に何か作業ができる場が見直されるようになったんだよね。かつての異業種交流が、再確認、再発明されるフェーズに入ってきたんだと思うな。

井上:技術面よりも、各業界のマナーや慣習をどうやって越えていくかが個人的な課題です。ぼくは大学にいたので、大学のマナーや慣習しかわかりません。他業種のことはちょっとやそっとの付き合いじゃ共有できないものだから、co-lab渋谷アトリエのような場所でしっかり時間を作って、ものづくりをしていくことが大事なんだと思っています。あとは、「Fabrication」と「Manufacture」の違いが日本で根付くのか気にかかっています。日本語では両方とも「ものづくり」ですから。「せいさく」っていう漢字があるじゃないですか?個人的には「制」と「製」の「衣」のありなしから意味を汲み取ってもらえたら、しっくりくるんですけどね。

久保田:「Have a Dinner, Drink a Beer.」だよね。一緒に食事をする、あるいは「飲めばわかる」のと同じように、一緒に作ってみる、つまり「作ればわかる」という新しいコミュニケーションが生まれているんだと思うな。これがFabricationの文化的、社会的な意義のひとつだと思う。

写真:FabLab Shibuyaの作業風景
■ FabLab Shibuyaの作業風景。すぐに作れる環境が整っています

梅澤:FabLab Shibuyaが他のファブリケーション施設と異なって面白いのは、工房で作ったものをさらに作り込める空間がco-lab渋谷アトリエ内にあることだとも思っています。デジタルだけじゃなくて、ちゃんとアナログなファブリケーションをフォローできるんです。

井上:そうだよね。3Dプリンターで出力して、「はい、おしまい」っていうわけじゃない。フィニッシングワークまでできる工房は他にはそうないよね。

久保田:FabLabやco-labの一番の価値は「買えないもの」にあると思う。3Dプリンターやレーザーカッターは実際に売っているから、個人でも買おうと思えば買えるものだけれど、多様な人が集まる状況とか技術や情報を教え合える空間は、どこにも売っていないし、共通言語をつくりながらコミュニケーションできる場所があるからこそ生まれるものだからね。

かつてAppleがIDEOと実現した恊働関係に注目
「第3の場所」が「研究所」になる前例を作りたい

久保田:どんな時代でもR&Dが大事ですよね。かつてのAppleとIDEOのような関係を、企業とFabLabやco-labのような場所が結べたら面白い。AppleはMacintoshのDuoを作る際、IDEOにメカニズムの部分をアウトソーシングしたんです。ワンタッチで誰もが使えて、壊れない物を開発してほしいと。それはAppleがIDEOを研究所のように捉えていたからなんだと思います。co-labにはメカニカルの専門家や電気屋、デザインの専門家など多様な職種の方が集まっているから、研究所になりうる状態ですよね。

田中:企業側からすると、co-labにどう発注していいのかわからないようなんです。だから、どういうスタンスで手を取り合っていけばいいのか、わかりやすくマニュアルのようなものを作れたらいいなと思っています。

梅澤:「何かしたいんだけど、どうやって発注したらいいの?」という質問はFabLab Shibuyaもよく受けますね。

久保田:IDEOのように実績を作れたらいいですよね。IDEOの場合は、Appleから依頼を受けたことが、ひとつのブランドステータスになった。そのプロセスをいろいろなところでプレゼンすることで、スタンフォード大学の学生を始めとする優秀な人材が入ってくるようにもなりました。インターンで入ってきた学生の中の優秀な人が、そのまま仕事ができるようにすることも重要です。

梅澤:美大出身者が加わっている、いまのFabLab Shibuyaと同じ状況ですね。

写真:FabLab Shibuyaメンバー
■ FabLab Shibuyaの運営メンバー。海外からのインターンも来ていて活発かつ和気あいあい

久保田:だからFabLabやco-labを通して前例を作りたい。他の企業に説明しやすくなりますから。

田中:そうですね。日本は前例があると早いですもんね。

久保田:そうだ、FabLabとco-labで自動車を作るっていうのはいかがですか?

田中:いいですね!

久保田:ガソリン車ではなく、パーソナルコミューターとしての電気自動車を作るんです。パーツは3Dプリンターやレーザーカッターで作って、カスタマイズできるようにする。

山本:用途に合わせて着せ替えできる車ですか!

久保田:壊れてもFabLabで修理できます。遠出用の自動車を作るのは大変だから、都内で使える一人か二人用の電気自動車を作って、買い物で利用してもらうわけです。運転はタッチパネルでできるようにしてみたい。それで、渋谷を拠点にしている他の企業から協力を得て、ファブリックコミューターとして1000台導入してもらうとか。渋谷は坂が多いから便利ですよね。社会実験にするわけです。そうすれば、「あの車を作ったのがco-labとFabLabか」ってわかってもらえる。

梅澤:FabCar作りたいですね。

久保田:「リサイクル素材で作りました」とか。まずは採算よりも、コンセプトを重視して作り上げ、データを公開していく。こんな電気自動車があったら、みんなはどうやって使うんだろう?っていうことを考えてみる。

井上:どうしても卓上Carを作ってしまいがちですもんね。「作ろうと思えば、人が乗れる車だって作れちゃうんだぜ」っていうところを見せたいですね。

久保田:そして、タッチパネルで操作できるようになった世界では、自動車の運転免許がどうあるべきかを議論してみる。原付と車以外の第三の免許があってもいいんじゃないかとか。それが高齢化社会におけるコミューターにも繋がっていく。

梅澤:社会問題にも直結していくわけですね。

久保田:インドのタタや中国の電気自動車のようなリーズナブルなものとは異なる、日本のインテリジェンスを駆使して作られる美しさや賢さに目を向けた自動車にするんです。中国に持っていけば、きっとiPhoneが登場したときのようになると思います。

田中:ワクワクしますね。ぜひ、チャレンジしてみたいです。

(最後に)
会社でも自宅でもない「第3の働く場所」は、これからもっと重要になっていくとぼくたちは考えています。

そのとき、その場所を利用する人たちが、企業の中で働いてきた経験を個人として発揮していけるようにするための支援をFabLabやco-labが行えたら、それ以上に嬉しいことはありません。

企業から独立して新たな一歩を踏み出す人々が、その大切な時期を過ごす「これからの働く場所」を豊かにするため、ぼくたちはコミュニケーションとコラボレーションの生まれる場づくりを今後も継続していきます。