対談・コラム
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#07 システムクリエイツ|小杉博俊氏|Material Garden Curator

写真:#07 システムクリエイツ|小杉博俊|Material Garden Curator

小杉博俊
Cosugi Hirotoshi

紙の仕事人
Material Garden Curator
System Creates Chief Officer

小杉博俊氏は、1965年に大日本文具株式会社 (現ぺんてる)に入社後、株式会社王子カミカの設立に参画したのち、株式会社システムクリエイツを設立。いくつもの企業の取締役を務めながら、ぺんてる『レノマ及びバーバリー』ブランドの紙素材商品や、CDを90円で郵送出来るパッケージ『CDメールパック®』といった紙にまつわる仕事(素材開発・用途開発・商品開発)を手がけてきた「紙の仕事人」です。

そんな小杉氏がco-lab渋谷アトリエに入会したのは、昨年70歳を迎える頃。数多くの企業の取締役、顧問を辞めて、一人になって新しいものづくりへの一歩を踏み出した時でした。今回のインタビューでは、小杉氏がco-labに入会した経緯、入会後に体験した人と人との繋がり、その結果、見えてきた今後co-labでやっていきたいことなどを伺っています。それは、今月オープニングパーティーを行ったプロジェクト『Material Garden』へと結実する、偶然と必然の出来事でした。

インタビュー:田中陽明(co-lab企画運営代表)
構成:新井優佑(WEB PR)

「ぼくは70を超えているけど、入って迷惑かけませんか?」
「ここだったらぼくの思う“これからのクリエイティブ”ができる」

田中:小杉さんは今までの仕事を一度整理してから、co-labに入会されました。どういった経緯でそうしようと思われたんですか?

小杉:そもそもは、昨年のぼくの誕生日、5月22日のちょうど1週間前に聖路加国際病院の日野原先生の話を聞いて、「ぼくものんびり過ごしていちゃいけないな」と思ったことがはじまりでした。少し考え方を変えようと思って、同い年のとある仲間と話していたんです。「ぼくたちは自分の色を出して35年くらい仕事をしてきた。そうなると二代目に引き継げるような仕事じゃないから、どうやってクローズしていこうか」。それでいよいよ70歳になるときに日野原先生の話を聞き、もう少し社会的な活動をしようと思ったんです。でも具体的に何をしようか悩んだのですが、まずは一人になろうって思いました。いつでもクロージングできるように、一人ならクロージングも楽ですから。そうして一人になった後、どういうところで動こうかと、拠点を探しはじめたんです。でも20数年間、平河町の優雅な事務所でのんびりやってきましたから、世間のことが全然わからなかったんですね。それでまずは貸事務所を探してみて、だけど平河町のオフィス環境が良すぎたために常に比較しちゃう自分がいて、ダメでした。それでいろんな人に話を聞いていったところ、「シェアオフィス」というものがあると教えてもらったんです。話を聞いていて、シェアオフィスの概念を面白いと思ったんですね。そこでいろんなシェアオフィスを見にいっていたときに、co-labを紹介してもらいました。co-labに入ることを決めてはいたんですが、いざ入るとなるとクリエイターを募集しているシェアオフィスだったので、「ぼくは70を超えているけど、入って迷惑かけませんか?」っていう問い合わせをしたんですよね。

田中:昨年の8月くらいのことですね。もう1年も経ちましたか。

小杉:昨年の今ごろ(9月上旬)は、実行に向かって必死で断捨離していた時期でした。それでco-lab渋谷アトリエを見学しながら、田中さん、山元さんに会って、「ここだったらぼくが思っている“これからのクリエイティブ”ができるかな」って思いました。山元さんっていう渋谷アトリエの工房のファシリテーターがいたから、ぼくが苦手なデジタル面を教えてもらえるかなと思ったんですね。あと、そのとき空いていた席もよかった。いろんなシェアオフィスを見たときに、個々の部屋に入ってしまっては、ぼくにとってはあまり意味のないものだなと思っていたんです。だからといってぼくは本当に凄く気が小さい(笑)。なのでたまたま3階のデスク席が空いていて、オープンすぎずちょうど良い人数の空間だったので、あそこは5人でしたよね? それで決めたんです。

田中:小杉さんは、5人でスペースを共有するデスク席にいますが、そこだから抵抗を感じずに入ることができたんですね。

小杉:そうですね。また受付の安藤さんがときどき開いてくださるお茶会に出れば他の方と少しは話ができるので、それで徐々にいろんな方と話をするようになっていって、ちょうど1年が経ちました。

デジタルファブリケーションはこれまでのものづくりと地続きにある
商品を作る以上はリスクの取れる責任力を担保する仕組みが必要

小杉 まあ、そんな経緯でco-labに入ったのですが、入ってすぐ、たまたま10月にco-lab二子玉川のイベント(EDGE TOKYO DRINKS)「メーカーズ」に登壇させてもらえることになって、そこでまたいろいろと気づくことになりました。考えてみたらぼくはファブレスのメーカーとして長い間ものを作るっていうことをやってきたなと。それが今は単純にデジタルに置き換わっただけで、いままでは工場に入り込んでやっていたことが、途中まで自分たちで作れるようになったんだなって。昔から、紙用のレーザー機器はあって使いたいと思ってはいたんですけど、それで作ると売るときの値段を高くしなくちゃいけないから商品にはできなかった。今は渋谷アトリエのレーザー機で名刺にいろいろな加工をしてもらいながら実験しているうちに、こうしたらコストが落ちるっていうこともわかってきたりしています。

写真:小杉さんの名刺

田中 これまで長く、ものづくりの現場を見てきたから実感できていることですよね。

小杉 ただ、ずっと商品開発をしてきて今、ぼくが感じているのはリスクのことなんですね。ぼくの場合は、ずっと製造委託を受けて納品してきたので、商品を作るっていうことへの厳しいリスクを肌で感じています。レーザーカッターや3Dプリンター等で、簡単に小ロットで作るものづくりが始まってしまった今、そこに関わる人たちに生産者としての責任感というか、責任力がどこまで芽生えるのかが心配なんです。試作ならまだしも、商品をつくりはじめてしまうと、必ず人が使う道具になるわけだから、人が関わるときにどこかで事故が起こるんじゃないかって心配しています。

田中 そうですね。特にインダストリアルデザインに関して、ぼくも小杉さんが心配しているような深刻な問題があるんじゃないかと思っています。

小杉 ですから、今「シブファブ」のようなブランドがあちこちで出来つつあるのを見ると、(co-labに関わらずデジタルファブリケーションによるものづくりに携わる)みんなに声をかけ、早急に「ファブ憲章」といった様な゛ものづくりにおける最低限守るべきルール゛を作らなきゃいけないと思っているんです。

田中 他にもやっていきたいことはありますか? 小杉さんは知的財産権に関することに詳しいですが、そちらの分野ではどうお考えですか?

小杉 知的財産権に関しては、いままでは企業や個人が特許なり実用新案、意匠登録などを取得した形で、権利を確保するような時代でした。それは、一番最初に発明した人に特定の期間だけ優先権を与えて、その人に対して独占生産できるという形から始まったのだけれど、結局それがだんだん弊害になってきているのではと思っています。ですから権利を独占しないで、逆に放棄するというようなことをやりはじめています。

田中 クリエイティブ・コモンズの精神に近いですね。自分で独占することは放棄して、世の中の英知をパブリックにするための方法です。

小杉 でも本来であれば、そんな馬鹿なことがっていう話ですからね。今までの経済活動であれば、一生懸命に考えたものであれば独占して、利益を得たいっていうのがふつうの考え方じゃないですか。ぼくも、90円で郵送できる光ディスク用パッケージを考えたときにものすごい量が出て、莫大な報酬を得たことがありましたから。ただ、紙のパッケージだから現物が手に入れば誰でもまねできちゃうわけですよ。だから流通している同じようなもののうち9割はぼくじゃないところが作っている状況でした。それで当時はメーカーと一緒に組んでいたから権利を確保しなくちゃいけなかったんです。でも権利を確保したところで堂々とまねするところってあるんですね。だったら、みんなが気に入ったんだからまねして作ってもらえればいい。自分はそれより先に行くっていう決心さえできればいいと思うんですよ。みんなが同じようなものを作ったとしても、自分が最初にやったんだという形のものが残っていれば証拠にはなるから。そういう形の名誉の取り方があるんじゃないかというのが権利の放棄をしてみたい理由のひとつです。もうひとつは、ぼくが知的財産権を放棄したものを真似て、似たようなものを作るときには、相手も相談に来てくれるだろうと思っているんですね。そのとき、ぼくと同じものを作るんだったら最低限、ぼくのものづくりの意図を伝えて、守ってほしいっていう形でやっていけないかと思っています。偽物で変な形のものを出されるよりかはよっぽど気分が良いし、世の中の役に立つと思うんですね。

前向きなものづくりをしている人たちと繋がって
自分自身がもっとポジティブにものづくりを始めている

田中:小杉さんはco-labに入って、人間関係の輪がどんどん広がっているっておっしゃっていますよね。

小杉:渋谷アトリエに顔を出すことによって、中にいる人との接点が生まれて、その方の知り合いを紹介してもらうということがあったし、メーカーズのイベントに出て、そこにいらしていたco-labメンバー以外の方からも声をかけていただきお付き合いの範囲が急に広がっちゃいました。その人たちがみなさん前向きな人たちだったので、ぼくも余計に前を向いて仕事をすることが面白くなって。ぼくは時間が空いているときはネットでいろんな情報を見ていて、自分の引っかかる情報を取り入れているんだけど、それってもうぼくが見る頃にはかなり広がっている情報でしかないんですね。だけど人と会って得ていく情報だとつい最近起きたことや起きる前の情報が入ってくるんですよ。

田中:本当に面白いですよね。co-labにいると、ちょっと先の情報が入ってくるんです。

小杉:そうすると、ぼくなんか新しいもの好きだから、それならこんな形にできるっていう話をして、それを聞いた受け手がまたいろんな形で変わっていく。だから今は、今まで十何年間閉じこもっていたことを損してたって思います。

田中:そうなんですか。co-labの中でも積極的にいろんな人とコミュニケーションを取っている方だなと思っていたので、小杉さんが閉じこもっていたなんて想像できませんよ。

小杉:いや、そんなこともないんですよ。

田中:小杉さんのようにアクションを起こしている方は、どんどん広がっていきますし、基本的にそういう方を受け入れたい人たちが集まっているので、繋がっていきますよね。小杉さんを見ていると再確認させられます。

小杉 あと、co-labのプラットフォームはものづくりの場だけど、65歳で定年退職してから10年くらい活動できる人に、その間で活躍できるプラットフォームがあってもいいと思うんですよね。今のco-labとは違うけど、介護施設ではなくて、今までの経験豊富な、しかもものづくりという枠の中の人たちが集まってくれば、もっとスピード早く何かができるのかなって思います。

田中 プロボノっていうんですが、今まで経験してきたことを共感できる活動に還元していくというボランタリーな働き方があるんですね。プロフェッショナルになっているシニアの人たちがそういう存在になって、存分に発表できる場ができていったらいいですよね。

小杉 人間としての今までの経験を活かして、最後に世の中に経験事を伝える奉公もあるんじゃないかなって思っているんです。ぼくがいま仲間に言っているのは、定年になって年金をもらうようになったら、co-labのようなところのフリー席を借りたらいいんだってことです。5年から10年借りたって大したお金じゃないし、自分が動く場を作っておいて、そこで若い人たちとふれあえば、ワクワクするものが出るでしょ。何がやれるかなんて考えないで、とにかく飛び込めって話しているんだけど、なかなかまだまだ。逆に、企業でリストラされそうな人がいっぱいいるから、50歳くらいのそういう人に向かって入れってことも言っていて。そういう人たちはco-labに興味を持ってくれていますよ。

リスクを負ってもつくっていく前向きなヒト・コト・モノ
Material Gardenが誘うのは、素材から始まるものづくり領域

写真:Material Garden(マテリアルガーデン)の展示品一部

田中:では、小杉さんがキュレーターを務めるMaterial Gardenの話をお聞きします。今回、Material Gardenをやりたいと思った動機について、お話しいただけますか?

小杉:co-labに入って、今まで若いクリエイターと話す機会がなかった者が、いろいろ話をしていくようになって感じたことがあって。ぼくは紙をずっとやってきたんだけど、ぼくが若い頃にはどういう紙があるのかっていうことを質感まで全部わかってた。触感だとか。でも若い人たちと話をすると、紙に印刷する仕事をしている人でもよっぽどのことがない限り、紙をわかっているって言えるような人がなかなかいなくって、刷れればいいんだっていう。出力機が出てきて余計にそういう流れができて、パソコンもできて。クリエイティブな形が変わって、写植で切り貼りをしなくなって、細かいこだわりがなくなったように見えるんです。クリエイティブな面でのこだわりが減って、紙のほうでのこだわりもなくなっちゃって。だからなんとか素材から入るおもしろさとか、例えば自分が印刷するときのメディアとしての紙がこれならこんなイメージになるし、あれならあんなイメージになるっていうイメージが膨らんでいくような情報を、他の人に伝えていけるようになればって思ったんです。もう少し、メディアとしての紙を知ってもらいたいっていうことを感じていて、それで昨年の暮れの頃に、田中さんにお話ししたんですよ。

田中:ええ、そうでしたね。

小杉:ぼくは疑問に思って、もうちょっとマテリアルのことを知らせる機関があってもいいんじゃないかっていうことをお話ししたら、たまたま似たようなことを考えている方がいるっていうことで(Material Gardenのキュレーター、co-lab二子玉川メンバー)伊藤さんを紹介してもらいました。

田中:co-labはあくまでもクリエイターのプラットフォームなので、中にいる人が主役なんですよ。なので人に発表してもらったり、紹介するメディアになりたいと思っていました。co-lab西麻布には地下1階に棚があって、ここを発表の場にできたらいいなというのが前々からあったので、ぼくたちとしてもすごく良いケースというか。キュレーションできる人が二人もいて、ぼくたちが運営のサポートをできて、すごく良い形ができそうだなと思ったんです。これはco-labの目標のようなものでもあるんですが、Material Gardenができて、何かプロジェクトが動くようになっていき、発表の場を作っていけたら、それをうまくビジネスの場につなげていく形ができるといいなって思っています。渋谷アトリエのco-factoryでもそうですけど、ビジネスにまで持っていけたら発明ですし、クリエイティブなことだと思うんです。キュレーターを担える方が二人も現れたことは本当に偶然なんですけど、でもどこか偶然じゃないような気がしてもいるんですね。

小杉:話がちょっと横にいっちゃうんですけど、ぼくは出雲大社で檜皮を使った紙を作ったんですが、そのときも本当にご縁があって。ここに移ってきたのも縁だねって。出雲大社に紙の話をしにいったときに、これは前から決められていたことをあなたが伝えにきたもので、こういうものはすべて神様が予め決められていたことだって言われましたよ。

田中:本当にそういうことってありますよね。

小杉:それでMaterial Gardenに話を戻すと、素材から触発されるという形でやっていけば、今は仕事がきたことに対して応えることがほとんどだと思うので、もうちょっと自主的にというか、自分のリスクでものをつくっていく活動ができていくんじゃないかなって思っています。新しい人にものをたくさん見てもらったら、面白そうだって思える素材が見つかって、こんなふうにしてみたいと思ってもらえるかもしれない。主宰者側がチェックするんじゃなくて、その人自身が思い込んだらそれを商品化していくような「前向きなものづくり」をやったほうがいいんじゃないのかなっていう、ちょっとおせっかいな気があって。だから余計にいろんな素材をみなさんに知ってもらいたいって思っているんです。あるいは素材をどう加工するかとか、それを用途開発とぼくは呼んでいるんですけど、そういう「素材からものをつくっていく」という手法があることを知ってもらいたい。

田中:Material Gardenは、ここで素材の使い方を提案する人と、それに刺激を受けて商品が生まれてくるキッカケになる場所になってほしいですね。

(最後に)

与えられた仕事ではなく、自ら作り出し、それに関わる人たちと広げていく「ものづくり」をする。

小杉さんのような「前のめり」のクリエイターがco-labにもっと集まれば、ポジティブで新しいクリエイティブが生まれていきます。

その先に見えるのは、クリエイターのプラットフォームとしての、今よりももっと活性化したco-labの姿です。

Material Gardenをはじめとした、これから誕生する数々のプロジェクトにどうぞご期待ください。