対談・コラム
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#011 NPO法人CANVAS|熊井晃史氏|ディレクター

#012 NPO法人CANVAS|熊井晃史氏|ディレクター

熊井晃史
Kumai Akifumi

NPO法人CANVAS
ディレクター

子どものクリエイティブ教育を豊かにする団体として、NPO法人CANVASができたのは約11年前。その当初より、さまざまなプロジェクトやワークショップを手掛けている熊井晃史さん。co-lab西麻布メンバーとして、KREI SALONを使った子どものためのワークショップを行ってもいる熊井さんと、クリエイティブに通じる教育についてco-lab運営企画・田中が対談しました。

どちらも団体設立から10年以上を経て得られた実体験があり、クリエイティブという共通のテーマを持っているため、生きた知識の結び付き合うトークセッションになりました。ワークショップ、教育、これからのクリエイティブ、それらに必要なキーワードが出そろう内容です。一緒に思考を巡らせながら、ご覧ください。

聞き手:田中陽明(co-lab運営企画)
構成:新井優佑(co-lab WEB PR)

クリエイターや識者と手を取るプラットフォームを大事にして、
「日本のクリエイティブ教育をより豊かにしていきたい」

CANVASワークショップ風景その1
→CANVASワークショップ風景その1

田中:NPO法人CANVASは、恐らく子どものためのクリエイティブ教育を行っている、ワークショップをする日本で一番の集団だと思うんですね。慶應日吉キャンパスで行った「ワークショップコレクション」では、2日間で10万人を集めるような人気のある団体だということも、ホームページを見ればわかることではあります。ただ今回はそのCANVASでディレクターを務める熊井晃史さんの口から、改めて、CANVASは何を目指しているのか教えてもらうところから、インタビューを始めたいと思っていました。

熊井:こどもたちが創造力・表現力をフルスイングで発揮できる場を日本においてたくさんつくりたいと考えています。学校ももちろんそのような場になりますでしょうし、学校以外にも家庭も美術館も図書館もはたまた商店街も・・・、さまざまな場がこどもたちの活躍の場になったらと願っています。それは、社会や地域全体でこどもたちを育む、ということにつながると思います。CANVASは、そのために、産官学民といわれるように、さまざまな方々との連携を大切にしています。その連携のなかで、知見から課題や事例等を共有しながら、これらの活動を分野として大きくしていきたいと考えています。

田中:誰か一人のカリスマにみんなが付いていこう、という形ではないんですね。

熊井:そうですね。自立分散的に全国それぞれの土地、あるいはプレイヤーから出て来た豊かなクリエイティブ教育が広がっていきさえすればいいとも思っています。普及という意味では、極論的にいうと最終的にはCANVASがいなくても、全国で豊かなクリエイティブ教育環境がある、という形は目標の1つの風景かもしれません。さまざまなプレイヤーとのつながりが、CANVASの特徴の1つだと思います。
ワークショップコレクションが10万人の来場を記録しましたが、当初は500人規模でしたし、ワークショップを開催してもこどもたちが集まらないこともありました。ワークショップという言葉が浸透したのも最近ですね。そういったフェーズごとにCANVASがやるべきことをみつめていきたいと思っています。

田中:CANVASの立ち上げ当初から現在まで、熊井さんはどういうポジションを担ってきたんですか?

熊井:ぼくは、CANVASが立ち上がってから間もなく入りました。当初はwebサイト等の制作更新からはじまり、ワークショップやプロジェクトの企画運営プロデュース等、多くの取り組みに関わってきました。

田中:ワークショップのプログラムも、自分たちで考えているんですか?

熊井:そうですね。自分たちでワークショップをゼロから企画もしますし、またクリエイターや専門家の方と協働で開発することもあります。あるいはクリエイターや専門家の方々すでにお持ちの企画をより多くのこどもたちへ、という願いのもとパッケージ化したり、企画の実践・運営者として展開もしたりしています。

ワークショップを語る言葉を作っていきたい

CANVASワークショップ風景その2
→CANVASワークショップ風景その2

田中:ぼくは自分の子どものことを含めて漠然としたイメージを描いていて、子どものためのクリエイティブ教育センターのようなものを作りたいと思っています。今、義務教育で図工の時間が減ってしまい、日本のクリエイティブや文化が危ない状況に向かっている気がしているんです。日本は和食や侘び寂びといった文化が世界に評価されていて、それらの下支えに経済が助けられている構図がずっとあるのに、国全体としてビジネスに寄った考え方が広がっているように感じています。ただ、クリエイティブ教育センターを作るとしてco-labが建物やスタッフを用意することはできるけれど、クリエイティブ教育の軸になる手法は持っていません。その点、CANVASは10年以上の実績があって、お受験系の教育を越えるクリエイティブ教育をやってきているじゃないですか。

熊井: お受験ということで思い出すのですが、co-lab西麻布のKREI SALONや二子玉川のカタリストBAや大学のスペース等で定常的にワークショップを展開していまして、そこに参加をしてくださる保護者方々から、ワークショップに参加をしているおかげで受験に受かりました!という手紙が実はたくさん届いているんです。わたしたちが受験を意識してカリキュラムを組んだり、対外的に情報発信をしているわけではないのですが。とはいえ、そのなかで、集中力があがった、物事のとらえ方が変わった、物おじをしなくなったといったこどもたちの様子や、ワークショップを通じて家庭でのこどもとの会話が増えた等の声をきくと、励みになりますね。お受験は1つの成果の表れだと思いますが、わたしたちの活動の手法はみつめていきたいと考えています。

田中:“お受験、お受験”していないけれど人間を育てているから、そこが評価された結果ですよね。ただ、そういう結果が残っていても、それ自体をちゃんと評価する評価軸がまだ日本には広まり切っていない感じがします。もっと体験や実績をいろんな方面に伝えられたらいいと思うんです。

熊井:なにをもって成功とするのか、こどもたちのその変化等の見取りはどうするのか、ワークショップや教育等のこども向け活動の評価軸というのは、大切かつ重要なトピックですよね。一方で、ワークショップの魅力やそこで起こっている注目に値すべきことを、もっともっと発信していきたいです。ワークショップの現場に来れば、こどもたちは文字どおり目を輝かせながら没頭したり、想像をふくらましたりしています。なので、みなさん現場にくるとわかるわけです。でも、臨場感をもって、そこでの体験について語る言葉や表現をわたしたちはもっと磨いていかなければならないと感じています。それが自分たちの活動をふりかえりより良くしていくためにも、またより多くのこどもたちに体験を届けていくためにも必要だと思います。

何かとの出会いを生むワークショップ

CANVASワークショップ風景その3
→CANVASワークショップ風景その3

熊井:以前、公開されたco-lab創世記のインタビュー記事でスクウォッタリングの話をしていましたよね。関心を持ってよんでいました。スクウォッター文化のあのワクワク感、高揚感、何かをやっている感じ。

田中:カオスや無秩序感は、やっぱり魅力ですもんね。

熊井:そうですね。自分をドライブさせてくれる人や物、情報との出会いの場は必要ですよね。ワークショップの魅力の1つにもそういうところがあると思います。ワークショップという受け皿の中で、これまで教育や子供との接点がなかった方々とこどもたちが出会っていく。こどもにとっても、おとなにとっても刺激的ですよね。

田中:それは大きいことですよね。いろんな分野をミックスできるというか……。子どもにとって得るものが大きいですよね。子どもは、“遊んでいること=ワークショップ”ですもんね。

熊井:そうですね。これからも社会全体にそんな場を増やしていきたいと思っています。

田中:そろそろ最後の質問なのですが、CANVASは今後どんな活動をしていくのか、展望を聞かせてもらえますか?

熊井:さまざまなワークショップの現場やさまざまな方々との取り組みのなかで、生まれている種がたくさんあります。その種が芽を出したりするために水や栄養をあげたり、そのための土壌を整えたり、抽象的ですがそんな取組をしていけたらと考えています。そのなかで、深くも広い活動をこれからも続けていけたらと思います。また、CANVASはさまざまな方や情報があつまるプラットフォームとしての活動を展開していますが、こどもたちにとって、またこの分野にとって、それがどのような形であればより良いのかというのは、改めてみつめていきたいと考えています。

(最後に)

クリエイティブ教育やワークショップには混沌や不確実性、不規則性があるからこそ光輝く魅力があります。でも、それを野放しにしていては一般に広まらず、魅力を残したまま明文化していく必要性、課題があることが見える対談になりました。

すべてがすべて答えの見えている話ではなく、熊井さんと田中がお互いその場で考えながら紡ぎ出していった会話です。この記事をご覧になった方々の中には、きっとご自身の体験や知識に基づいた意見が浮かんだ人もいることでしょう。

そんな個々人の思考や体験を起点にして一歩踏み出し、アクションを起こしていくことが実はクリエイティブやその教育を豊かにしていく根源なのかもしれませんね。