対談・コラム
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#13 Qurz|島村卓実氏|デザイナー:前編

島村卓実
Takumi Shimamura

Qurz Inc.

co-lab渋谷アトリエメンバー・Qurz(クルツ)の島村卓実氏は、プロダクトデザイナーとして、日本では希有な存在です。ミラノサローネ等、海外の展示会に自ら足を運び、デザインしたクライアントの製品を自身で販売しています。クライアントと手を取り合い、ビジネスモデルを確立する段階からデザインしていく働き方をしているからこそ実現できる働き方です。それは、これからのデザイナーにとって重要な働き方だとco-labは考えます。

そこで今回のインタビューでは、島村氏をお招きして、プロジェクトを立ち上げる段階から関わっていく働き方について伺いました。元・自動車業界出身のインハウスデザイナー・島村氏がインディペンデントクリエイターとして、今の働き方を確立していった過程をお話し頂きました。

インタビュー:田中陽明(co-lab運営企画)
構成:新井優佑(Web PR)

デザインしたものは何が何でも売らないと気が済まない
クライアントと手を取り合い、商流システムを作る

——日本のプロダクトデザイナーと島村さんの働き方がどう異なっているのか、まずはそのお話しからお聞かせください。

島村:一般的にデザイナーの仕事は、ある種、頼まれた物のデザインを出したら業務は終了します。例えば、携帯電話なら初めから携帯を作るということが決まっていて、それに別の機能を付けたいという要望があるならデザインをします。クライアントの要望や企画にしたがってデザインを展開する事が業務です。ある種、割り切った作業でもあります。売れなかった場合に、デザイナーは責任を取ることはありません。

でも私たちは、「売れるのかどうか」とか「何を作ればいいのか」ということがまだ決まっていない状態から仕事をスタートすることが多いのです。私たちは何が何でも売らないと気が済まなくて、売るためにどうしたら良いのかを考えて、何年か後にはビジネスができているシステムをクライアントと作ります。何個売ればビジネスとして成立するのか等を考えるのです。

具体的には、一緒に商談会に参加し、国内外のバイアーに売り込んだりする事まで行います。導火線のような働きをしてから、リリースに繋げていくのです。責任の所在が明確になる働き方ですし、デスクで待っているより、製品化時の形を目の前でイメージできます。


→島村氏の手がけるプロダクト例

——島村さん自身がちゃんとリスクを背負って働いているということですよね。事前に委託金を出してもらう場合もあれば、ロイヤリティで契約をする場合もある、ということでしょうか?

島村:ええ。というのも、デザイン•フィーが曖昧な部分が多いこともあって、デザイナー自身、わかっていない部分が多くありますし、クライアントも明確には基準を持つことができないと思うのです。でも、プロジェクトにいくら掛けることができるかという話であれば、クライアントは計算できますから。プロジェクトの一部としてデザインを組み込んで頂き、実際に形になった時にはロイヤリティベースで取引しましょうという話になることがあります。

ただ、実際の販売数を予想できない商品に対してはロイヤリティが何%になるかなんて話はできません。そこで私たちはロイヤリティ値をプロジェクや商品ごとに変動させる事をしています。その点は特に、一般的なデザイナーと比べて異って見える部分かもしれません。

プランニングから販売まで一気呵成に担当する
バイヤーの意見も反映されたベストなデザインに辿り着く

——ロイヤリティの計算方法こそ確立することが必要そうですが、プロダクトデザイナーであれば、商品の販売数に応じたロイヤリティ契約を結んでいけるのではないかと思うのですね。それなのに、日本でロイヤリティ契約をするデザイナーは少ないのが現状。商品の開発にデザイナーがリスクを取っていく働き方が難しいのは何故なのかと思います。

島村:それは、求められていない部分があるように思います、デザイナーがビジネスにまで口出しすることを。ただ、デザイナー自身が会社を率いて生きていくことを考えると、リスクを取ってでもビジネスをしていかなければなりません。お互いがWin-Winになるように、ビジネスにして発展させていける仕事をしたいですよね。

ただ、やっぱりクライアントに応じてバランスの取り方はあります。中小企業と仕事をする場合は最後まで関わってあげないといけないし、大きい会社であればそこまでやらなくてもいいという部分がありますね。

私自身は、プランニングをやればプロデュースもやり、ディレクションもデザインも手がけ、マネージメント管理まで担うように一気呵成に関わることができ、それはデザインがぶれないので良い働き方だと思っています。企画段階から一緒に決めていくことができれば、最終的に形を作る時、提案するデザインが1個か2個に落とし込めます。企画を考える過程で、多くのデザインアイデアで悩む事がなくなります。

——なるほど。一般的には分業される仕事を、島村さんは一人で全て担えるのですね。ロイヤリティ契約を結ぶ場合は、どれくらいのパーセンテージで交渉していますか?

島村:製品によって異なりますね。バッグでも、種類によって一つずつ変えています。2%もあれば10%もあるようなイメージです。ロイヤリティを高く要求してばかりでは、製品の値段が上がってしまい、売れなくなってしまう。売れないのでは本末転倒なので。

商流や生産計画、販売計画にいたるまで綿密に計画することで、総個数に対してのロイヤリティの計算方法も製品ごとに変えていきます。

作りたい形と売れる形のバランスの取り方がある
co-labを利用し始めてからトライ&エラーで身につけた


木製ブランド『monacca』の製品

——でも、島村さんは元々自動車業界にいましたよね? インハウスデザイナーとして、リスクを取ることなく働いてきたのに、どうして今のやり方を始めたのでしょうか。

島村:反面教師のような面が強かったからかもしれません。自動車の場合、デザイン以外に立ち入ることはありませんから、歯がゆい思いをしたこともありました。

例えば、プロジェクトがスタートする時に、誰かが企画を立てて、想定したユーザーを伝えられて、「こういう人が使うならば」という考えで自動車をデザインします。いくつかデザインした中から、プロジェクトリーダーが選んで、選ばれたデザインをさらに肉付けして完成すればデザインの工程はほぼ完了。その後、多くの部署の工程を経て製品が店頭に並ぶ事になります。ただ、その自動車が売れなかった際、デザインの善し悪しで評価される場合が多いのです。

本当にデザインが悪いから売れなかったのか。企画や販売方法が原因の場合もあります。でも形は一番見えてしまうから、お客様に対しても「デザインが悪くて失敗」と口にすれば説明しやすい。商品を決定づけるファクターはデザイン以外にも多くあることが分かり始めた頃から、今のやり方に変えていきました。

——フラストレーションが大きかったわけですね。今はやりたいことが実現できている、ということでしょうか。

島村:作りたい形と売れる形って違いますよね。作りたい形を作ってばかりでは売れる確率は低いままです。実際、作りたい形と売れる形のバランスを取る方法はあって、それはco-labに入ってから多くの業者やco-lab内の仲間達とのトライ&エラーを繰り返していった結果、見えてきたことだったりもします。

——co-labができたのは2003年の5月ですが、島村さんには当時から利用してもらっていますね。

島村:土日の打ち合わせ場所として利用したのが最初でしたよね。特にco-lab三番町時代は取引していた工場に出向いて働いていることが多かったから、週末利用が多くなっていました。

そんな折、木のブランド企画(monacca)が始まったのですが、この当時の方法はまさに今の開発手法のプロローグになっています。スバル時代から続く多くの製作会社に協力をあおぎながら、一方では「絶対に成功しない」と言われたりもしました。私自身の周りの人からも、「恥ずかしくてこのバッグを持って歩けないよ」と言われていましたし。

でも海外に持っていって話を聞いてみたら、「ナチュラルでクール」という意見をもらえたのです。作る過程から、リサーチしながらデザインしていたので、大丈夫だとわかることができました。