対談・コラム
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#14 Tone & Matter|広瀬郁氏|co-labフェロー、プロデューサー

広瀬郁
Iku Hirose
Tone & Matter

co-lab渋谷アトリエメンバーのTone & Matter広瀬郁氏は、インディペンデントクリエイターと企業の間を繋ぐプロデューサーです。その活動領域は、ホテルCLASKAから港の小さな味噌汁食堂屋さんまで、事業規模、業態に関わらない広範な物。co-lab三番町の頃からメンバーとして、co-labの抱える数々のプロジェクトにも参画していただいており、現在もco-labのフェローとして活躍していただいています。

その広瀬氏にご自身の活動や、ビジネスとクリエイティブのブリッヂング、co-labへの期待などを話していただきました。ビジネスにおいて創造性を価値に置きかけることが最重要課題になった現代だからこそ、事業への見識は、個々のクリエイターやクリエイティブワーカーが意識しなければいけない必須事項。だからこそ思い描く、クリエイターがビジネスの知識も持ち合わせる未来について、語っていただきました。

インタビュー:田中陽明(co-lab企画運営)
構成:新井優佑(Web PR)

クリエイティブに携わる人たちへ
コストサイドから稼ぐ側に移ってほしい

――co-labにもフェローとして関わっていただいている広瀬さんですが、まずは改めてどんな仕事をしているのか、この場を借りて訊くところから始めたいと思っています。

広瀬:ぼくが携わっている仕事は、規模が小さかろうが大きかろうが、ハードウェアであろうがビジネスモデルであろうが、商品であろうがなかろうがあまり関係なく、すべては開発なんです。プロデューサーという役割で、各開発に携わり、事業計画を見ています。

でも、ただのプロデュースをしたいわけじゃなくて、既存組織の内部に新しいチャレンジをしたい人がいて、そのチャレンジを外部でサポートしたり、サポートできるクリエイティブな人たちとチームを組んで仕事をすることに重きを置いています。

――広瀬さんの仕事は、一般的に考えると、中小企業診断士に相談するような仕事だと思われがちですが、クリエイティブに物事を見ることのできる目を持っていないと務まらない役割ですよね。

広瀬:基本的には、組織の問題は、その内部だけでは解決できないと思っているんですね。だから、疲弊している既存組織とクリエイティブな個人をブリッヂングして、一緒のチームになって働けるように動いています。外部と関わるプロジェクト型の成功事例が増えていくと、組織のルールに適用することができるかもしれないし、文化や価値観を変えるチャンスにもなると思っているんです。

今、ぼくがまとめている書籍でも取り上げているのですが、企業と個人をブリッヂングできる人が必要だと考えています。既存の企業とクリエイティブな個人が上手に組めない現状があり、それは企業の組織体系だけの問題ではなくて、クリエイター側の課題も大きいと思うんです。分かりやすく言うと、フィーの受け取り方でさえロイヤリティという概念を取る人がほとんどいない。もちろん、現実的な課題が山積しているため、難しい面があることは知っています。

でも、いつまでもコストサイドにしかクリエイティブな個人が立たないと言うのであれば、もったいないと思うんです。建物にしても、建築家が入ると単純にコストが上がると事業者サイドに思われてしまっていますから。

――確かに、クリエイティブに携わる人は、作品を作るんだという固定観念を教育されてきたという現状がありますよね。

広瀬:だから、世の中が変わっていってほしい方向性とぼくがco-labに期待していることは同じで、クリエイターがもう少しビジネスに興味を持ち、それらのマインドセット・スキルセットを持ちえている未来なんですね。ビジネスに対するスキルセットを付与する人がぼく以外にもco-labにいて、一緒に組むことができて、ビジネスとしてのクリエイティブな事例が増えていけば、見える景色が変わってくるという気がしています。

ぼくがハルマキさん(co-lab企画運営代表・田中の愛称)ととても合う部分は、同義主義を信じていないところですよね。個人の能力、個人が瞬間的に弾けた時に生まれる何かを信じていて、天才や属人的な物、チームの弾ける力でしか変えることのできない何かがあると思っている。そのために、ビジネスの仕組みをデザインして、クリエイションとブリッヂングできる人が増えていくことを望みますね。

広瀬氏の関わったCLASKA外観(2003年開業当時)

|クリエイターだからこそ生み出すことのできる
|イノベーションがある。それを担う人に繋げたい

――広瀬さんには今、co-labが横浜市と取り組んでいるプロジェクトにも参加していただいています。クリエイターと町工場を繋げるためのやりとりがある中で、プロジェクトを牽引していってくれていて助かっています。

広瀬:牽引というか、ビジネスの進め方に則した整理整頓です。いきなりプロダクトデザインを行うのではなく、まずビジネスとして、町工場がどうやって生き残っていくのかということと、それに付随する個々のモデリングや知識の提供が必要ですから。牽引できていると思ってもらえているのは、経営コンサルタントや新規事業をしていたことで、事業の進め方や工場の仕事のやり方をなんとなく知っているということと、一方で自治体としても新しいチャレンジなのでそちらの整理も同時に進めているからでしょうか。

横浜市のプロジェクトでは、町工場の方に自分たちでやるのではなく、クリエイターやクリエイティブワーカーに任せることのメリットを伝えていますよね。町工場の職人の仕事をクリエイター側ができないのと同じように、クリエイティブなこと、イノベーティブなことを町工場の方がやろうとしても、すぐにできないのは当然。ある種の訓練が必要なことは、訓練を積んで来た人に任せることが大事だと思います。

――ワークショップがブームになって、あらゆる人がクリエイティブでイノベーティブになろうとしているけれど、やっぱりそんな風にはなれませんよね。だからこそ、企業とクリエイティブな個人が結びつく必要性がある。広瀬さんは、co-lab渋谷アトリエメンバーのFabLab Shibuyaを運営しているデジタルファブリケーション協会に理事として参画されていますが、そのモチベーションは何から来ていますか?

広瀬:デジタルファブリケーションによって、ものづくりに何かしら異なる仕組みができあがる気がしていて、身近で体験しておきたかったからですね。自分が参加してモデリングできれば、一つ良い経験にはなるから。

ただ、自分の物をマウスで作っていくようになるかどうかは、ちょっとわかりません。今現在は町工場に入っている機材のほうが当然高性能ですから、機材がもたらす技術だけに意味はあまり感じていないんですね。それよりも、考え方や領域横断的な物が場を通して生まれるのであれば価値があるから、面白いですよね。

「ビジネスクリエイティブ横浜プロジェクト」
プロダクトブランド「横浜GROWN」
プロダクトデザイン:デザイニト/伊東祥次を中心にほか数名
プロジェクト推進:トーン&マター/広瀬郁
プロジェクトPR:co-lab(春蒔プロジェクト)

|クリエイターにビジネスの知識を得る機会を作り、
|ビジネスとクリエイティブを両方考えられる超変人を育てたい

――広瀬さんには、設計系と広告系に加えて、経営コンサル系とデベロッピング系、大きく分けて4つの領域で活動して来た経験がありますよね。その経験があるからこそ、今のような仕事をしていけているんだと思います。本来はクリエイターやクリエイティブワーカーも複数の領域を経験してから、インディペンデントな活動をしていったほうがいいんじゃないかと思うのですが、いかがですか?

広瀬:本当にそうですよね。だから、学校をつくりたいとも思うんです。

フランスにナントという都市があり、ヨーロッパで一番住みたいクリエイティブ・シティだと言われています。そのナントの美術大学では、卒業する前にビジネス系のコースを履修しなければいけないというルールがあるようです。ビジネスとクリエイティブを結びつけるための知識を携えてから実戦の場に出ている。それが街のパワーにも生きていると思うんです。

――クリエイティブが街づくりにも生かされているということですか。

広瀬:街づくりと言っても、その源泉は仕事にあります。仕事づくりが基本なんですね。クリエイターが路頭に迷うような街は元気にならないので、誰かを喜ばした分のいくばくかの対価をちゃんと受け取れるように、お金の流れが生まれていることが大事。お金の流れに目を向けられないようでは、世捨て人と同じになってしまいますから。

ヨーロッパは生活保護のようなサポートが手厚いんですね。だからと言って“自称クリエイター”が増えてしまっても困るから、自分の分は自分でちゃんと稼ぐという意識をちゃんと学んでから卒業するようになっているんです。そういう教育は日本にもあったらいいのかなと思うんですね。だから実戦で学べるような、超変人を育てるような小さな学校を作りたいと思っていますね。

(最後に)

領域横断的な知識や経験があって初めて、クリエイションとビジネスをマッチングすることができます。すべてのクリエイターやクリエイティブワーカーがそういったバランス感覚を持って制作に向かえる時代が訪れれば、街や日本はもっと元気になる。でも、まだまだそういう人材は少ない。だからこそ今、広瀬氏のようにクリエイションとビジネスの相互通訳としてビジネスの飛躍を担う、ブリッヂング・プレイヤーが必要とされ、今後も必然的に増えてくることになるでしょう。

co-labもクリエイターやクリエイティブワーカーのためのビジネス・プラットフォームとして機会の創出、今よりも善い環境でクリエイターが働いていける場を作っていきます。これからもco-labにご期待ください。