人間らしさを生かしたデジタル社会創造の未来を語る|SpiralMindがco-lab渋谷キャストの活動を通して見つけたビジョンとは

2017年5月から2年間、co-lab渋谷キャスト1階のco-factoryで『HoloDive』というVRやMR体験ラボを企画運営されていた株式会社SpiralMind。「人間らしさを生かしたデジタル社会の創造」というコンセプトをもとに2017年設立された同社は、Mixed Reality技術やAI技術を応用した未来のワークスタイルを主な研究領域とするオープンイノベーションラボとして活動されています。
コンセプトに共感した外部パートナーには、Mixed Realityや映像による動作分析技術、VRアプリ開発や3DCG技術を得意とする各分野のプロフェッショナルが揃い、デジタル技術による未来のライフスタイルを創造することを理念に共同研究開発を続けています。また、パートナーは国内だけでなく、成長著しい中国のハイテク企業とのコネクションを持つ日中ベンチャー交流支援のエキスパートが身近にいることもSpiralMindの強みの一つと言えます。‬

この春、事業成長の加速と共にさらなる展開を目指して、2年間在籍したco-lab渋谷キャストを離れ、ほど近い神宮前に新オフィスを構えることになったSpiralMindですが、今回は代表 鎌田卓氏にco-labでの活動振り返りや今後の活動ビジョンについてお話しを伺いました。

 

インタビュー・構成:鳥井真央(co-lab PR/ローカルマネージャー)

 


(SpiralMind 代表 鎌田卓氏)

 

ーまずはじめに、なぜco-lab渋谷キャストで活動をスタートされたのでしょうか?

鎌田氏:実は、通常、我々のようなデジタル技術開発を行う企業は、こういった他分野の職種が集まるタイプのシェアオフィスには入居しないものなんですよ。IT系だけを集めたシェアオフィスであればわりとよくあることで、それはつまり同業者同士の技術交換が活発なので、そういった交流を求めてデジタル系のベンチャー含めIT系シェアオフィスを利用することへのメリットを感じているからなんです。
ではなぜ、SpiralMindはco-lab渋谷キャスト開業の話を聞いた時に、入居を決めたのか?それは、2017年当時のco-labに集まっていた方々は、一部プロジェクションマッピング技術などデジタル領域もいらっしゃいましたが、どちらかというと平面系などのアナログ領域のお仕事を専門とされている方々が多いと思ったんです。

(co-lab渋谷キャストの2Fの様子)

僕らからすると、後者の領域で活動されている方々との交流は非常に貴重で、co-labに集まるクリエイティブでプロフェッショナルな方々がもっている日常の素朴な感覚を、同じ空間に共存することで知りたい、そしてそのリサーチには大きな意義があると思っていたんです。

 

ー確かにクリエイティブ領域を専門に、幅広いクリエイターやクリエイティブワーカーがいるのはco-lab最大の特徴ともいえるので、その点に興味を持っていただけたのは嬉しいです。では、実際にスタートしたco-labでの活動はどのような手応えがありましたか?

鎌田氏:手応えはかなりありました。それは具体的な成果の実例があったというよりは、どちらかというと、開発におけるインスピレーションをもらうきっかけがあったというと説明がしやすいかもしれません。というのも、我々デジタル領域の業界は、常に技術革新を追い求めているため、現実社会よりも20~30年先の技術開発をしているのが通常という傾向にあります。一方で、現実社会の時間軸に沿った日常的な課題もあるわけです。我々が運営していた『HoloDive』には、想定通りデジタル領域の関係者からの問い合わせが多数ありましたが、実は多くのco-lab会員やそのご関係者のクリエイターも大変興味をもって体験してくれました。些細なリアクションであっても、専門領域の人間では思いも寄らないコメントが寄せられたり、そうした経験こそがco-lab渋谷キャストの入居で求めていたことだったので貴重でした。


(2017年オープンイベントでの体験風景)

(多くのco-lab会員がVR体験をしに訪れた)

 

特に印象的だったのは入居当初の2017年4月26日のプレオープンから5月26日までの期間です。なんとHoloDiveへの来場者数は約400名にものぼり、その多くはVR技術の未体験者だったことも非常に大きな驚きではありました。新鮮な反応を目の当たりにして、純粋に嬉しかったのも覚えています。

 

ー会社設立後すぐに入居されましたが、co-labでの2年間はどのような期間だったのでしょうか?

鎌田氏:最初の1年間は我々の研究も手探りだったように思います。というのも、パートナーに各分野のプロフェッショナルがいることで、ある程度、研究課題や開発の方向性は持っているものの、それを定めていくことにはどうしても時間がかかります。特にSpiralMindは「人間らしさを生かしたデジタル社会の創造」ということを非常に重要視しているため、技術先行であっては理念を果たすことができません。現在、自社サイトに掲げているビジョンがまとまったのも、ちょうどco-lab渋谷キャストの活動が2年目に入った頃に定まりました。そして、その下地になっているのはアナログ的な感覚です。

 

(3つのマインドから形成されたSpiralMindのビジョン:https://spiralmind.jp

 

― デジタル領域の最先端技術者から”アナログ”という言葉がでる、これは非常に興味深いです。具体的にアナログ感覚とは、どのようなことを示しているのでしょうか?

鎌田氏:我々がアナログ感覚と表現するとき、それはつまりデジタル技術の開発が技術先行ではなく、使う人のニーズ先行の技術開発を重要視したいという想いがあります。先ほども申し上げた通り、技術だけならいくらでも成長することができ、それこそ今の社会で最先端とされている技術は、我々にとってはどれも何十年も昔から語り尽くしているような技術だったりします。そういった意味で、最近で顕著なのはVR技術です、我々からしたらもう30年前からある古い技術なんです。おもしろいですよね。ただし、そんなVR技術もようやく機器が安価になり一般化してきて、技術用途の可能性も他分野に広がっていることは、非常に素晴らしいです。

 

(2018年に行われたVR勉強会|VRディスプレイを体験する来場者の様子)

(専門家を集めたワークショップがco-lab渋谷キャストにて数多く開催された)

 

<これまでに開催されたワークショップ>
2018/3/7(水)VR勉強会|バーチャルリアリティー技術の進化
2018/4/26(木)VR勉強会|AI・データ解析の現場で起きていること
2018/5/25(金)VR勉強会|動画配信の次は誰もが空間を配信するようになる
2018/6/20(水)VR勉強会|ここでしか聞けない?古くて新しい“カイゼン”ビジネス最前線 ~もう始まっているSociety 5.0~
2018/7/11(水)VR勉強会|単なる3Dモニタを超えたVRモニタzSpace紹介と体験
2018/9/27(木)VR勉強会|アバター世界から考える 未来のバーチャルな働き⽅

(SpiralMindとco-labが共催したHELLO VR! SHIBUYA イベントの様子)

― 2018年夏には、VRに馴染みのない一般の方も簡単に無料で楽しむことのできるVRの博覧会『HELLO VR! SHIBUYA』を渋谷キャストで共催しましたが、こうしたイベントを通しても手応えを感じられましたか?

鎌田氏:先ほども申し上げた通り、VR技術が現代社会の日常生活にまで溶け込み始めているという現実は、我々デジタル領域の人間にとって大いなる衝撃です。それと同時に、人々がデジタル技術に触れた驚きが開発者にとっても新たなモチベーションや発見につながることは間違いないですよね。つまり、一般家庭にテクノロジーを普及させるためには技術側が敷居をさげて、「楽しい!」や「おもしろい!」というワクワクするような体験から認知を進めていくという方法が最も適しているということです。

 

(デジタル系職種の方から、渋谷に訪れていた一般の家族連れなど、幅広い層の来場者)

 

そういった意味で、HELLO VR! SHIBUYA(実行委員会として、株式会社VRデザイン研究所、株式会社SpiralMind、co-lab/春蒔プロジェクト株式会社の3社が共同で企画運営)では、VRエンジニア育成スクールであるVRデザイン研究所の学生作品を数多く展示したり、企業が開発しているゲームやエンターテインメント系のVR、教育、防災、ドライビング・シミュレーションなど、これからの生活で活用されるようなVR製品を数多く展示できたので良いイベントになったと思っています。お子さんたちが多く体験しにきてくれたのも良かったですね。

 

― お話を伺っているとSpiralMindの研究開発は技術を通じて、コミュニケーションを重要視しているように感じます。

鎌田氏:法人としても僕自身としても、ビジョンの中心にあるのは全て人(ヒト)です。それは外部パートナー含め、SpiralMindに興味をもって集まってくる方々にも共通していると言えます。VR技術では、セカンドライフやアバターの世界観が説明されがちですが、実はそれだけだと、どこかSF的というか3次元の世界、遠い未来の話という認知でおわったり一過性のブームで消えていってしまいます。しかし我々がテクノロジーに求める本質はそこではないんです。

最先端技術をつかうことで人々の暮らしが豊かになり、技術を介して生きた会話をできる、そこが我々SpiralMindの思想の中心にあります。SpiralMindのメンバーをはじめ、パートナーや集まってきてくれた人たちも同じような情熱がありますから、極端な話、SpiralMindが解散してしまった後も独自で同じようなビジョンを持ち続けて活動できるような信念をもった人たちに支えられているとも言えます。

 

―『人(ヒト)中心の技術開発』ですが、その実例はどのようなものがあるのでしょうか?

鎌田氏:SpiralMindが掲げる3つのビジョンを通じてお答えしますと、まず『Mind Analysis(様々な空間内の人の行動・心理の分析)』においては、AIを用いた作業動作分析技術の提供を進めています。具体的には、製造現場での作業分析に用いたり、医療のリハビリトレーニングの現場での活用が期待されたりしているのですが、映像技術によって対象者を撮影することで、人間が個別にもつ身体的な動線を可視化することが出来るので、撮影した動画をもとに動作比較をすることが可能です。つまり自分の視点で感覚的に動き方を学習できるため、習熟度向上につなげる役目を担っています。

 

(製造現場での作業分析画面)

 

特に製造の現場では、後継者育成が大きな課題となっていますが、撮影動画によって熟練者と新人との作業動線の比較をしたり、シュミレーターによる分析等にも活用できるため、外国人の作業者でも客観的にトレーニングを重ねることができます。
特に、これらの技術を大掛かりな映像装置で実現するのではなく、一般的に普及しているスマートフォンで簡単に動画を作成でき、そのままスマートフォンで簡易的なトレーニングまで一貫して行えることが重要だと考えています。

『Mind Network(バーチャルソーシング社会)』においては、アバターテレポーテーション技術が挙げられます。ちょうど2018年5月8日から5月10日に福岡空港内で行われた自動運転バスのデモンストレーションにおいて技術提供した事例からご紹介します。

具体的な技術としては、福岡空港で走行する自動運転バス車内のディスプレイ上にアバターというCGキャラクターを表示させ、東京のHoloDiveにいるオペレーターさんの表情(目や口、頭などの細かな動き)を音声とともにリアルタイムに反映させ、バスの乗客と双方向でコミュニケーションできる技術です。

最後に、『Mind Bank(人間的思考のデジタル化)』ですが、これはMind AnalysisやMind Networkといった技術がこれからますます活用されていく中で、これまで感覚的にしか伝承されてこなかった匠の技や、熟練したオペレーターさんの振る舞いなどがデジタル的に蓄積されていくことで、高齢化社会における人手不足問題を解消し、持続的に成長できる社会づくりができると考えています。

 

― 最後に、新オフィスでの活動や今後のビジョンについてお聞かせください。

新オフィスは神宮前にある住宅なのですが、まずHoloDiveのオープンラボは引き続き行っていこうと考えています。体験型のラボがあることは我々の技術開発には重要だからです。さらに、今回のオフィス立ち上げにおいて非常に重要視したのは空間づくりで、言ってみれば「一般の家みたい」という素朴な雰囲気を意識しています。

 

(居心地の良さそうな新オフィスの様子)

 

(リフレッシュできるオフィスグリーンスペース)

それはつまり、我々デジタル領域の人間がイメージしがちな未来的な空間にはしないということなのですが、なぜかというとSpiralMindが体現していきたいのは人間的な居心地の良いコミュニケーションありきの世界だからなんです。
同じ業界の人間からすると非常に驚かれたりもしますが、テクノロジーが現代人の生活の中に溶け込み、暮らす人々が和むような雰囲気づくりができるというのが近い未来の世界観だと我々は考えているんです。

 

(リビングの一角にあるアクティブワーキングスペース)

 

テクノロジー開発が進むことで近年の働き方や暮らし方にも大きな変化がでてきていて、絶対に会社に行かなきゃ仕事ができないというしばりも緩やかになってきているように感じています。
こうした働き方や暮らしの中にある窮屈さを改善できれば、出産や育児のために仕事を続けることができなかった方々や、地理的な都合で好きな仕事に携われなかったということがなくなります。我々SpiralMindはこうした人の生活に寄り添うように、いつも中心にヒトを考えながらこれからも新しい研究開発を続けていきたいと考えていますし、新オフィスのオープンラボでもそうした未来の暮らしを自分たちが体現したいと思っています。

 

― 今回はSpiralMindの3つのビジョンについてのお話やco-labでの活動振り返りをいただき、テクノロジーと共存する未来の暮らしが身近なものに感じられました。co-lab渋谷キャストから新オフィスはお近くなので、今後もイベント開催などでご一緒できることを楽しみにしています!本日はありがとうございました。