INTERVIEW
co-labをビルオーナーがソフトコンテンツとして活用する期待と付加価値、そして未来|co-lab日本橋横山町:re-clothing事業者「ログズ株式会社」の場合
2003年6月に六本木でスタートしたco-labは、ディベロッパーやビルオーナーと運営会社の春蒔プロジェクトが協業して、クリエイターを支援するシェアードワークプレイスとして成長してきました。2015年2月には、初のアライアンス契約を結び、春蒔プロジェクトが運営をサポートする形式で株式会社サンコーとco-lab墨田亀沢:re-printingをオープンしています。
今回、ご紹介するのは、2016年9月にアライアンス契約2号としてオープンした、co-lab日本橋横山町:re-printingの事例です。2019年3月にアライアンス契約を満了するまで、春蒔プロジェクトとディベロッパーのログズ株式会社は協力してきました。その結果、ログズの事業や専門とする産業にどのような変化が産まれていったのか。ログズ代表の武田悠太氏と、財務担当執行役員の高越規嗣氏に春蒔プロジェクト代表の田中がお尋ねします。
インタビュー:田中陽明(co-lab運営企画)
構成:新井優佑(co-lab Web PR/フリーランス)
co-labのアライアンス契約に寄せた期待
田中:改めて、co-labに声をかけてくれた理由を教えてくれますか?
武田:ログズは、もともと卸売事業のみをしていましたが、アパレル部門を本社に統合した際に、社屋の4〜6階フロアが空いたんです。その空いたフロアの活用方法を考えて、アトリエにして、デザイナーを呼ぶことを思い付きました。事例を調べていたところ、co-labにはアライアンス契約(*)があることを知ったんです。
*アライアンス契約とは……企業同士が契約に基づき、同じ目的に沿って協業すること。
田中:co-lab墨田亀沢:re-printing(*)のことですね。
* co-lab墨田亀沢:re-printingとは……2015年2月、墨田区亀沢にオープンしたco-labの拠点。印刷業を営む株式会社サンコーとアライアンス契約を結び、印刷業をはじめとした軽工業によるものづくりのステークホルダーが集うプラットフォームを担い、次世代の産業を築くことを目標とする。
高越:ログズのみでは、目標とする訴求力やシナジーを、すぐにつくりあげることは難しく、かつ運営上のノウハウも得たかったため、問い合わせをしようと思いました。
co-labオープン後の自社事業が得た付加価値
田中:ログズとアライアンス契約を結んでみて、co-lab日本橋横山町:re-clothing(*)のような提携を今後も検討してみたいと思うことができました。
私たちのようにクリエイターとの接点で活動を続けてきた立場とは異なる目線を持っていたログズは、ファッション産業自体を変えていくために、クリエイターの参加をどのように価値づけていくのか考えていて。もともと大手経営コンサルでキャリアを積んだビジネスを知る方々だったことも、そのように考えていく要因だったんじゃないかと思います。
そんなログズは、目の前のことをひとつずつ潰していくスタンスでした。社外のデザイナーとつながりを築くとしても、発注内容がない状況でビジネス的関係に近づけることは難しいところを、空いたフロアをシェアオフィスのように活用して、デザイナーをはじめとしたクリエイターに入ってもらい、空間と時間の距離を、何かあったらはじめられるくらいに近くしていった。
それはco-labの魅力のひとつです。それに気づいて、co-labのリソースをどう活用するのか考え抜かれていることに興味を持ちました。
* co-lab日本橋横山町:re-clothingとは……2016年9月、日本橋横山町にオープンしたco-labの拠点。現金問屋でありながら生産体制を持ち、不動産事業も展開するログズ株式会社とアライアンス契約を結び、繊維業の長い歴史を持つまちに、クリエイターの叡智を集め、次世代の価値を産み、まちに大きなエネルギーを生むことを目標とする。2019年3月にクローズ。
高越:実際は、もっと難しいと思っていたんですよ。でも、co-labという名前があることで、様々な企業・個人に入居いただき、中には商売をはじめることができた方もいらっしゃり、思っていた以上にビジネス的な効果が得られました。今後も広がりは大きくなっていくんじゃないかなと思っています。
OEM/ODM事業の顧客にco-lab日本橋横山町:re-clothingのことを説明しても、クローズドなサロンではなく事業として取り組んでいるイメージを持ってもらうことができ、ポジティブな印象を持ってもらえました。
武田:co-lab日本橋横山町:re-clothingをオープンする前の2016年時点では、ログズに卸売事業の先はありませんでした。そこから、業界で活躍する、勝負できる人たちとの人脈ができて、そのおかげと事業努力を続けてきた結果、大手アパレルのほとんどに商品を卸せている状況をつくることができた。とても大きな変化です。
高越:従業員にとっても、オープンな場を持つことや、学校を毎週開いていることで、ログズとしてファッションを一生懸命に取り組んでいると感じてもらうことにもつながりました。採用活動をしていても、入居企業やコラボレーションしている方々を知っているとおっしゃる方も少なくありません。
co-labが地域産業にもたらす貢献性
田中:co-labをはじめて、もとから、このまちにいた人たちからは、どんな興味を持ってもらえましたか?
武田:僕は横山町奉仕会の経営企画関連でリーダーをすることになりました。まち自体には、小さなプレイヤーの僕らが大きな変化を産むことは難しいけれど、同時代的に、ホテルやシェアオフィス、カフェができて。ログズがやってきたようなことをみんな同じように考えていた。そういうことが受け入れられるような場所という意味合いは出てきたのかな。
高越:オープンなスペースを自分たちで運営してきたからこそ、人が集まってくる可能性を感じることができたし、同じようにはじめた人たちやこのまちに移ってくる人たちとシンパシーを感じやすい状況になっていきました。
田中:僕は建築出身だから、まちづくりに関心を持っていて、クリエイティブの力がまちにいい影響を及ぼすことや、co-labを取り入れることで事業活性化につながることを意識してきたんですね。co-lab墨田亀沢:re-printingでも、事業主に地域再生関連の事業があれば声がかかる状況は生まれていて、ダイレクトな影響を及ぼすようになっています。
武田:ログズの場合はそこまで直接的ではありません。
高越:パブリックではなく、プライベートな方向性が強いからなんです。
田中:そのプライベートな方向性で、確実に影響が生まれているのは、ここまで聞いてきた話を見ても、実感できました。そのような成果は、他の地域にも応用が効くことだと思うんですね。日本橋横山町の繊維産業のように、特徴的な産業が集積しているまちは日本全国にあります。ただ、以前からまちで営みを続けてきた方々がいるだけに、時間をかける必要はあるのかなと。
武田:このまちの場合、6階建てのビルがあっても、3階までしか在庫を置いていないところは少なくありません。それは、ログズも同じ状況でした。だから、4〜6階をco-labにしようと考えて、安い値段で貸し出すことからスタートしました。それは、入居してくれた人たちと一緒に、新しい事業を考えていくことを想定していたからです。他のビルのオーナーも、そういうことをしていけばいいのにと思うんですよ。
田中:すぐに変化することは少なくても、水面下でじわっと広がって、どこかのタイミングで経済変化が起きた時に変わっていくものだと思いますよ。
高越:僕らのような事例を知ってくれた人が、こういう変わり方をすることができるんだと思ってくれて、少しずつ変化していく流れが生まれてきたら嬉しく思います。実際に不動産関係者が何組か見学に訪れてくれることもありました。
不動産関係者は、仕入れたものを自分たちのハードコンテンツで埋めて販売してきましたが、不動産を保有している分、低コストにできるという競争優位性を活かして、新しいソフトコンテンツを持ってくるようにできたら、横展開ができます。
田中:不動産関係者の方も、中から外に賑わいをかもし出していくメディアのようなソフトコンテンツを持っていると強みになることに気づいていますよね。実際に、co-lab日本橋横山町:re-clothingも賃料を低くして、人が集まる場をつくっていったことが、次の仕事の声がかかることにつながっています。
アライアンス契約を終えたオーナーの展望
田中:2019年3月でアライアンス契約を終えることにした理由はありますか?
武田:今回の場合、ログズの事業が大きくなっていくなかで、デザイナーの力を借りて、大手企業の仲間入りを果たすフェーズから次のフェーズに移るタイミングが来たことが大きいです。
高越:つながっていけた方々と仲間になっていくフェーズで、co-labの枠組みとは異なる業態を目指していくことが見えてきました。
武田:今後の展開としては、学校という軸を強くして行きます。ものづくりのインフラを提供するプレイヤーは増えていて、クリエイティビティに専門性を持たない人でも力を発揮できる状況はできていますが、その先には、本気でものづくりに取り組む人が勝っていく時代が来ると思っているんです。
高越:商品を取り扱う側にいる人でも、本格的なデザインや生産の技術に触れる機会は少なく、本気でものづくりに取り組める人が求められる時代が来るんですよ。
武田:
これまでクリエイティブのみが力を発揮していた時代をものにしっかり結びつけていき、服を捉え直すことを期待した展開です。テクニカルライブラリーをイメージしています。つくってきた生地やパターンのリストがあって、それを利用できるような場ができたらなと。
田中:そのような取り組みに、僕も期待しています。ぜひ、実現してほしいです。