INTERVIEW
落合守征の仕事術—「星庵」の制作を巡って—【後編】
世界最高峰のデザイン賞iFデザイン賞の最高位金賞に加え、数多くの国際デザイン賞の受賞してきた建築家・落合守征さん。
【前編】では、岡山県美星町での「星庵 / 星空を眺める茶室群 SEI-AN / Constellation of Stargazing Tea Ceremony House」プロジェクトについてのインタビューを通して、制作プロセスやコンセプト作りなど落合守征さんの制作観に迫りました。【後編】では、どうして海外からそういった作品が海外からたくさんの評価や注目を受けるのか、そして、その背景にある制作観における具体的な方法論や、海外マーケットを視野に入れた現代日本におけるクリエイティブの位置づけについてお聞きしていきます。
S:「星庵」の制作プロセスとコンセプトデザインには落合さんの制作観が反映されていると思います。「星庵」には、ローカルなコンテクストとグローバルな視点ないし普遍性とが共に一つの作品の中に織り込まれている。さらに聞いてみたいのですが、落合さんはそういう制作を意識してやっているんでしょうか? あるいは、今回気になっていたことでもあるのですが、落合さんの作品が異なる文化圏の国で賞を授与されるのはどうしてなのでしょうか?落合さん自身がそのことについてどう思っているのか、聞いてみたいです。
O:そうですね。ぼくもわかっていないことがあるんですが…、ぼくの仕事は海外のメディアや賞にすごい受けがいい。というか、実際いただくんですね。それはまず、「コンセプトの純度あるいは美しさ」にあると思います。海外の方々は、文脈、歴史、それを見つけてどうアプローチしたのか、ということを見ています。要するに、この人は何を大切にして作家活動をしているのか?という。文脈を見つけ、こういうことに価値がある、というフォーカスを当てて、それをどう形に見えるようにするか、というところです。ぼくは、ぼくらが同じ人間なので、そこまで変わらない「普遍的な美しさ」があると思っています。ぼくは「水」が大好きなのですが、「水面に反射した光」にはとても綺麗な瞬間があります。ああいうのを汚いっていう人ってなかなかいないですよね。でも、「水面の光」なんて、昔からあるわけです。そして、今ぼくたちが生きている瞬間瞬間だって、二度と同じ輝きがない。ぼくはそういうところから、インスピレーションもらっています。水とか光、そういうものはグローバルにつながる。それを海外の方々は無意識に感じ取っているのか、と思います。
O:また一方で、ローカルな文脈があります。日本は単一民族なので、お互いに文脈わかっているでしょ?感じがある。だから、文脈を辿っていったりっていうことは重視しない。もちろん、今ある雑多なものを組み合わせるのもおもしろいと思いますが、ぼくはあまりそういう方法を取らないで、文脈に眠っている文化を徹底的に調べます。で、そこから自分が重要と思うポイントを見つけて、組み合わせていきながら、できるだけ美しい形をつくる。ローカルなものと普遍的なものをどう繋ぐか、というのがぼくの仕事です。
そうしたそのプロジェクト固有のものやその見つけ方がオリジナリティになる。それを海外の方々は評価してくれているのか、と思います。実際、「あ、自分もその感覚あるんじゃないかな?」というような、ローカルなのだけど、グローバルに、普遍的に感じるものがあるんじゃないか?という、意識の働かせ方はデザインプロセスで設計している部分はありますね。だから、星庵のプロジェクトでもなるべく日本を感じさせるような素材は一切使っていません。
S:あえて、使っていない。
O:はい。典型的な和紙とか竹とかあるじゃないですか。そういういわゆる表面的に日本を感じさせるような素材は一切使わず、日本固有の文脈の精神性、コンセプトの部分は目に見えないところに封じ込めて、目に見える素材は、ベニヤとかガラスとか、割と誰もが使っている素材を使うようにしています。そうすると、ぼくが話した認識の構造ができるかな、と。「あれ?これ、自分たちも使っている素材じゃないか?だけど、探っていくと日本の精神性の文化が眠っているぞ」というアプローチですね
S:おもしろいですね。直接に感じられるものは日常的な素材だけど、それを通して感覚されるものは、高い次元的で組み合わさった日本のローカルな精神性と普遍性のある美しさ。
O:はい。そうすると何がいいか、というと、海外の人が「じゃあ、自分たちも、自分たちのできる道具で」って作品から影響をうけて作れていく、というか、考えていける。そして、彼らが作ったものにまた影響をうけて、新しいものをぼくらもつくっていこうと。それが「文化の継承」というか、それができたらいいな、と思っていますね。星庵の例だと、美星の文脈が海外に行って、海外の方に影響を与えて何かできれば、それが文化の継承です。ぼくの活動はおそらくそういう活動になっていくと思っています。日本の人口減少を踏まえたとき、文化をどう残すか?という課題があって、ただ量は作れないし、消費もしないというふうになると、日本の立ち位置的にもそうなっていくかなぁ、と。
S:落合さんは、海外における日本の立ち位置、そのクリエイティブをどう考えているか、もう少し聞きたいです。
O:例えば、日本企業がグローバル展開するときに、日本って基本的に長寿企業が多いですよね。だから歴史があって、ものすごいものが眠っているんですけど、そういうところで勝負するしかないんじゃないか、と。昔の、上の世代の人は、歌舞伎や和紙とか海外にそのまま持って行ったわけですが、もうそんな時代じゃないし、海外の方が日本研究進んでいたりする。そういうときに、素材だけは海外と同じものを使ったコンセプト作りをしています。この考えは、海外の授賞式に行って、いろんな人と話したり、メディアのコメント見たりして、考えていたときに出た結論だったりします。自分では全然日本的じゃないと思っているんだけど、すごく日本的って言われて、最初はわかっていなかったんですけど、そういうことか、と。知らないうちに日本的な考え方・癖が出ていたんですよね。
S:日本的。
O:簡単にいうと、最小限の、一つの素材を工夫して最大の評価をとか、パーツはシンプルで、微妙にちょっと違う、星の色や開口が違うとかです。ヨーロッパの人たちは「積んでいく」。全然違うもの同士を構築していくような構築美を競うっていうところがあります。ただ、日本は、折り紙、着物、風呂敷とか、一枚の紙、テキスタイルからいろんな多様なものを作り出していく。ぼくはそういうのが戦略的ではなく、結果的に好きだったんです。別に和紙とか竹が好きということじゃなくて、日本のモノづくりの考え方がしっくりくる、というか。突き詰めると、「日本は何?」ってことより、「あなたは何?」ってそういう根源的な問いを海外の方々は見てきます。日本のクリエイティブが海外マーケットでのある普遍性を持っていたら嬉しいですけれど、「それが何か?」というのはまだわからない。100年も1000年も待てばわかるかもしれないですが、自分は生きられないので、今は「横軸」で、同時代でできるだけ多様な考え方の人に届くモノづくりをやろうと思っています。そうすると自分の仕事が、ある普遍的な美しさに近づけるんじゃないか?という期待と希望を持ってやっていますね。
落合さんは星庵のほか、自身が担当した美容室「Crystalscape」の設計デザインにおいても国際的に高い評価を受けている。茶室と美容室、異なる2つの趣の設計において共通しているのは、訪れた人の心を動かす空間体験の提供である。
金属の波と白の立体格子が幾重にも絡み合っている天井は、髪の輝きと軽やかで優雅な流れをイメージしている。相互の組み合わせ方をカットエリア、シャンプーエリア、中央通路と滞在エリアごとに変え、天井の高さや外光具合に変化を出すことによって多様な空間体験を可能にしている。
今後も落合さんが作り出す空間デザインから目が離せない。
Crystalscape受賞歴
Archdaily Building of the Year 2019 Nominee ( アメリカ )
Best of Year Award 2018 Honorees / Beauty Spa 部門( INTERIOR DESIGN誌 / アメリカ )
International Design Award Honorable Mention ( アメリカ )
INTERIOR DESIGN magazine – 25 Innovative Ideas Shaping the Future of Design 選出 – ( アメリカ )
Crystalscapeの詳細はこちらから。
落合守征デザインプロジェクト:http://www.moriyukiochiai.com/
[脚注]
[1]:箱根ドールハウス美術館のリノベーションプロジェクト。植物園を美術館/多目的空間にトランスフォームさせることを目的としており、空間の中心の円形劇場には水で満たされた泉が制作された。https://www.german-design-award.com/en/the-winners/gallery/detail/16948-waterscape-memory-of-spring.html