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Creation News #1 小西真由美さん(konnie design主宰)
こんにちは。
co-lab代官山コミュニティ・ファシリテーターの佐々木です。
co-labの入居クリエイターは日々様々なクリエイションを行っていますがそうしたお仕事の内容やプロセスをじっくりお訊きできる機会は定期開催のプレゼン会を除くとそれほど多くありません。その辺りはもう少し踏み込んで聞いていきたい。
そんな中、2017年初夏、co-lab代官山入居クリエイターのkonnie design主宰の小西真由美さんがパッケージデザインを手がけた缶チューハイ「塩ライチサワー」(サッポロビール株式会社)が販売開始されました。本商品は、全国のセブンアンドアイホールディングス店舗(セブンイレブン等)で購入できるそうです。
今回、これを好機として、小西さんがお仕事の中で気をかけたところやこだわったポイント、また、konnie designが掲げる理念「シンプルさとは?」というお話を訊かせていただきました。
訊き終えて素朴に思ったのは「本気でデザインしている人の話はマニアックで面白い」ということ。突き詰めて創っている人のプロセスの話には驚きと面白さが詰まっている。そんな僕の感動を少しでも皆様とシェアできればと思います。
—————————5月某日 代官山co-lab gallaryにて
—今日はよろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
—早速ですが、今回のパッケージデザインの経緯(いきさつ)やこだわりをお聞きできればと思います。
「昨年サッポロビールさんから、塩を入れたサワーを開発しているので、デザインをお願いしたいと依頼がありました。第一弾は『塩レモンサワー』で、近年女性の間で家庭の常備食としてブームになっている『塩レモン』に、サッポロビールさんは着目したようです。
『塩レモン』はガラス瓶に『塩とレモン』を漬け込んで作るのですが、今回のパッケージは、そのガラス瓶に漬け込んでいる様子をヒントにしデザインしました。(もちろん案は複数提出しましたが…)ストライプは『果実』で、ストライプの間の銀のダイヤは『塩』。『レモンの輪切りと塩を層のように入れて』という様子を表現したんです。」
—ストライプにはそういう意図があったんですね。
「はい。『何気なくストライプとかにしているんでしょ?』って思われがちなんですけど、何気ないモチーフにもちゃんと意味を込めてデザインしています。ガラス瓶にラベルを貼ったのも、ホームメイド感を出したくて。それがおいしさ感に繋がって、親しみやすさに繋がって。それと、ちょうどこれが6月発売。初夏だから爽やかな感じにしたいという思いもありました。ただ、『缶』って8色までしか使えないんですよ。」
—8色までしか使えない?
「紙の印刷はCMYKの4色があって、そのインクの掛合せで色々な色を作るんですが、缶の印刷は掛合せができなくて、たった8色のみ。しかも(紙に比べて)元々の網点が大きいし、印刷の精度も正直良くないんです。
ですので、水彩イラストもその印刷の精度を想定して、描いてもらうように指示しています。あまり細かく書き込まず、遠目で見た時に綺麗に見えるように…とか。」
「ここ_(指差しているところ)のガラス瓶のイラストには太い縁取りを入れていますが、通常の水彩ってここまで太く入れないんです。でも、遠目で見たときの目立ち度を上げるためにあえて太く入れてもらうよう指示しました。
それと、店頭では数秒で購買意思が決まると言われています。だから、2, 3m離れた場所からショーケースを見たときに、他の商品との間の中で、ちゃんと目に飛び込んで来るようにしなければいけない…。だから遠目の印象もとても大切なのです。」
—では、デザインするときはパッケージ単体だけを考えるのではなく、購買するときの状況、実際の購買者さんの目線でどう見えるか、ってことを考えているんですか?
「そうなんです。だから、発売時期の気温やその季節の人の心境をイメージしたり、実際にコンビニ等に行って、並ぶ棚の他の商品も見にいったりしています。並んだときに埋没してしまうのは残念ですからね。ショーケースを一目見たときに目を引くようなデザインにすることを心がけつつも、手にとったディティールにもこだわりたい。両方の視点からデザインしています。
—ちなみに、実際飲んでみてどうでした? パッケージデザインと実際の味って制作過程で合わせていくんですか?
「だいたい発売前に飲ませてもらいます。実際のその味に近いイメージのデザインになるようにしないと、飲んだとき『あれ?思ったのと違う?』『思ったより〇〇だ』…ってネガティブなイメージになってしまいますからね。」
—ギャップがあるとネガティブ?
「1回購入して飲んでもらった時にネガティブなギャップがあると、次にまた買おうって気持ちにならないと思うのです。リピートしてもらうことが大切ですから…笑。ですから、ちゃんと味に近いデザインであることも重要なポイントなのです。
それと、印刷のキレイさも缶のイメージにとって重要なので、印刷の当日は地方の工場に立合いに行き、その場で最終確認もします。印刷する日の天気や気温、湿度などによってインクの硬さも変わってくるので、最終の色を確認するのです。そういう出張も結構多いですね。」
—デザイナーさんでも出張、本当に一つの小さな缶のデザインにも価値提供を目指して本当に様々な側面から検証をしていくんですね。そういえば、小西さんは主宰するkonnie designで「シンプルで、心を惹きつけるデザイン」を心がけているといっています。
—今回のパッケージデザインでは、どんなところにその「シンプルさ」が現れているとお考えですか?
「デザインは特別に飾ろうとしたりよく見せようとすることではないと思っています。デザイン自体もシンプルなものが好きですし、でも今回は、よくある日常のキッチンの風景(=漬け込んだガラス瓶)を缶に表現した…という、考え方そのものがシンプルな気がしています。」
—なるほど、“見た目の”ではなくて、“考え方”のシンプルさ。デザインもシンプルなものが好きなのですね。
「そうですね。個人的にはシンプルなデザインって好きなんですけれど、ただ缶の場合、あまりにデザインがシンプルすぎると美味しさが伝わらない…『美味しさ感』や『ワクワク感』などもあった方がいいので、果物のイラストを入れたり、そのタッチや大きさのバランスも重要で…。あの限られたスペースの中で、その商品の持つ「良さ」をどれだけ最大限に表現できるか…というのがデザイナーとしての私の仕事であり役割だと思っています。」
—いやぁ、面白いですね。いつまでも聞いちゃいそうですが、お時間も来たので、今日はこのあたりにさせてもらいたいと思います。お仕事の合間にありがとうございました。
「はい。ありがとうございました。」
—————————
実際聞いてみると、小西さんが一つの創作にかける観点の多さや下調べ、検証の突き詰め方には感嘆しました。
また、話を振り返ってみると、小西さんが「自分の話をマニアックでしょ」と繰り返し言っていたことが印象に残っています。僕にとってはそのマニアック具合が本当に面白く、また、自分の仕事の仕方を自戒の念を持って振り返るキッカケ−−僕は自分の仕事でそこまで突き詰められているだろうか—となり、ありがたい時間でした。
今後も入居クリエイターさんのクリエイションを紹介しつつ、可能であればお時間を少しいただいて、お話聞いていければ幸いです。
そして、暑くなって来たこの時期にピタリとくる「塩ライチサワー」、飲んでみてください。
_interviewee
小西真由美(Mayumi Konishi)
konnie design主宰 http://konnie-design.com/index.html
アートディレクター、グラフィックデザイナー
追伸:6月13日に、第4弾として「塩スイカサワー」も発売なのだそう。こちらも味を楽しみつつ、デザインの視点で小西さんがどこをこだわったのか、と缶パッケージを眺めてみるのも楽しそうです。
〔コミュニティファシリテーター:佐々木〕