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イベントレポート|創造性発見ワークショップDAWN! 3日目
3月18日(木)、co-labを企画運営する春蒔プロジェクトと、音楽を通じて風通しのよい社会づくりを目指す特定非営利活動法人パラ・ラ・ムジカの共同企画で、これからのVUCAな時代をしなやかに生き抜くために、「クリエイティブ」な仕事の考え方に触れてみることを目的とした「創造性発見ワークショップDAWN!―中高生のうちに見つけたい!仕事に対する考え方―」が開催されました。
最終日となった3日目は、「実際に探求する」をキーワードに、クリエイター専用シェアオフィスco-labに所属し、各分野の第一線で活躍する、株式会社カイユウCEO米村智水氏、スピアーズアンドメイジャー株式会社の東京スタジオ代表豊田寛土氏、映像・写真撮影/ディレクターの古屋和臣氏をゲスト にお呼びして、お三方から出されるお題とともに参加者の学生の方々と活発な意見交換をしました。
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まずは昨日に引き続きモデレーターを務める竹丸草子氏より本日のゲスト、米村氏、豊田氏、古屋氏の紹介からスタート。ポップポータルメディア「KAI―YOU.net」を運営し、メディアや広告などさまざまな媒体で、ポップカルチャーに関わるプロジェクトをプロデュースされている米村氏、ロンドンに本社を持つ照明デザイン会社で、世界中を股にかけながら照明プロジェクトを担当している豊田氏、広告全般やミュージックビデオ、芸術文化領域において、ディレクションから撮影までを行い、大学でも講師を行う古屋氏。面白い話がたくさん聞けること間違いなしのゲストの方々に、学生のみなさんも興味津々の様子でした。早速、それぞれご本人から自身の自己紹介をしていただきました。
米村氏
「僕たちは、「KAI―YOU.net」といういわゆるポップカルチャーのWEBメディアを運営しています。報道の記事を作ったり、取材に行ったり、コラムを著名人に書いてもらったり、広告の企画制作をしたり。YahooニュースやLINEニュースなどにも記事を配信しています。メディア運営以外にも、壁面広告とか、テレビCM、ミュージックビデオやテレビ番組まで作ったりしています。ポップカルチャーの総合商社、みたいな動きですよね。現代がどういう時代なのか、社会や人々が何を欲しているのかを考えることがポップへの近道と考えながら、仕事をしています。」
豊田氏
「僕の仕事は光と闇のデザインです。ロンドンに24年間住んでいて、サッカー選手を目指していたんですよね。セミプロのユースチームまで頑張ったけれど、難しくて将来どうしようかと考えた時に、ものづくりが前から好きだったので、プロダクトデザインを大学で勉強しました。それから、スピアーズアンドメイジャーへ。当社は幅広く様々なプロジェクトに携わり、コペンハーゲンのオペラハウスや、アブダビのモスクの照明、ロンドンのヒースロー空港、キリスト教の教会やオフィスビルだったり。建物だけではなくて、街を照らす都市計画などの光のマスタープランも考えたりしています。一言で照明デザインって分かりづらいと思うので、先ほども言いましたが僕は「光と闇のデザイン」をしています、といつも言っています。光と闇のデザインは視環境の体験をより豊かにすることのお手伝いだと思っています。」
古屋氏
「僕は、フリーランスで広告や、CM、ミュージックビデオなどのさまざまな媒体でカメラマン、映像ディレクターをしています。他にも、多摩美術大学で非常勤講師として教室に立っています。一般的には、ディレクター、カメラマンと分業が普通ですが、僕の特徴としては、自分で絵コンテを描いて、撮影して、編集までの一貫作業を全部行うことで、自分自身の守備範囲を広くしています。本日は、映像の企画を一本作ろうという企画を考えています。」
実際の作品や、プロジェクトなどのスライド写真を見せてもらいながら、具体的な仕事の詳細を話していただきました。そしてここから、本日のメインのワークショップへ。学生のみなさんは自分が興味を持ったクリエイターさんの部屋(オンライン)へ移動してもらうことに。米村氏、豊田氏、古屋氏それぞれに考えていただいたお題で、3つの部屋に分かれて、意見交換やワークを行いました。
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「推し活」について考えよう
米村氏の部屋は「推し活」について考えよう、というテーマ。芥川賞を受賞した作品「推し、燃ゆ」を例に、若い世代の「推し活」のリアルな意見や考えを引き出していました。
「推しとは?」
「推しって何だと思う?」
「実際に、みんなは推しがいる?」
「推しになったきっかけは?」
「どんな方法で推している?」
「推しとリアコは違う?」
そんな、さまざまな問いから、「推し」がいることのメリットやデメリット、「推し活」の二面性が浮かび上がってきました。時間やお金、気力や体力を使ってでも、精神的に満たされる存在。けれども、お金をかけることで得られるステータスや、推しにかけた金額でファンの順位が顕在化することなどの金銭的な問題だけでなく、「推し」との関係性やギャップが生むひずみ。メディアが「推し活」のポジティブな面ばかりを取り上げているけれど、そこには必ず危うさがあることを全員で話し合いながら、「メディアリテラシー」ならぬ「推しリテラシー」の必要性という新しい言葉も飛び出しました。
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光と闇のデザイン
豊田氏の部屋では、身近にある「光」、けれども実はよく知らない「光」をテーマに、光と闇のデザインの具体的な内容まで掘り下げました。
「光はエネルギー、情報、命の象徴…」
「何をやるかより、何故やるかが大事」
「デザインはコミュニケーション」
「デザインはコラボレーション」
「光は色を演出する」
「明るさって何?」
「光の汚染」
「Light is Life」
さまざまな名言やキーワードが飛び出した豊田氏のトーク。デザインの話から始まり、照明デザインのプロジェクトが実際どのような工程でどんな人々とコラボレーションしながら行われているのか。そもそも「光」とは何なのか。学生さんと対話しながら、「光」と「明るさ」の関係や、照度輝度などテクニカルな内容、さらには光が及ぼす環境問題まで、幅広く話が及びました。「光」という普段何気なく目にしているものですが、知れば知るほど奥が深く、実際に何十年も「光」の仕事をしていてもまだ分からないことがたくさんあるのがこの仕事の魅力とのこと。豊田氏の話全てが初めて知ること、気づくことばかりの貴重な時間となりました。
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「渋谷」を舞台とした映像の企画アイディアを書こう
古屋氏の部屋では、「渋谷」を舞台とした映像の企画アイディア(A4用紙1枚)を書く、というお題で、実際に学生さんが手を動かしてみるワークが行われていました。
映像の形式は60秒の映像を想定。
202X年、渋谷をPRするために自由な発送で映像を制作してほしいと依頼を受けた。
予算、撮影規模などの問題は一旦無視して、アイディア重視!
渋谷をどうアプローチするか、着眼点の例を実際の映像とともに説明。「かっこいい」「スタイリッシュ」なステレオタイプの渋谷ではなく、例えば渋谷の歴史や記憶に思いを馳せた映像を撮ってみる。いろいろな着眼点を持つこと、もっと違うアプローチの方法がないかどうかを考えるのが大事だということを話されていました。また、「アイディアを考える時のコツ」も伝授。短時間で雑なアイディアやキーワードをとにかくたくさん書き出してみること。最終的にその中から一つを選んだり、キーワードとキーワードを結びつけてみたりしながらアイディアを絞る。企画の考え方を学んだ後は、いざ実践の時間へ。
最後は時間切れで、それぞれのアイディア発表までとなりましたが、古屋氏のアドバイスを受けた学生の皆さんの企画案は、斬新な着眼点で渋谷の新しい風景が見えるようなアイディアが生まれていました。古屋氏は実際に絵コンテまで描いた2案の企画書をこの短時間で完成。さすがプロの仕事でした!最後に『となりのトトロ』のサツキとメイが井戸水の水に触れた時の描写は、宮崎駿氏は井戸水の冷たさを知っているからこその表現であったことを例に出し、すなわち、いろいろなリアルな体験、無駄な時間、自分だけの失敗談など、たくさんの経験こそが、クリエイティブに奥深さを持たせるのだというお話が印象的でした。
中高生の皆さんはそれぞれの部屋で、どんな新しい発見や視点に出会うことができたのでしょうか?
「推し活のことを改めて人と話すことがなかったので、言語化できてよかったです。きっとどこの部屋に行っても楽しかったんだろうな、と思います。」
「推しは僕たちの世代では当たり前だったけれど、改めてどうなんだろうと考えたいい機会でした。自分との関係を求める好きか、コンテンツとしての好きかを考えたのも面白かったです。」
「光について今まで考えたことがなかった。奥が深くて、さまざまな要素が絡まりあっていて新鮮でした。」
「普段見ているCMコンテンツを一から考えたことなかったので、実際にやってみてとても楽しかったです。」
「今まで日常では使わないクリエイティブな考えを使えました。これからは日常でもクリエイティブな発想を育てていきたいと思います。」
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「創造性発見ワークショップDAWN!―中高生のうちに見つけたい!仕事に対する考え方―」最終日。参加者の方々には、自分が参加した部屋以外の様子を後日、オンラインのアーカイブでチェックできることになっており、どの学生さんも3つの分野を体感できる仕組みになっています。「クリエイティブ」というキーワードを通して、大人も学生も一緒に考え、感じ、話し合った3日間。中高生のみなさんはこの機会を通して、これからの時代を生き抜くヒントを少しでも受け取ることができたでしょうか。可能性しかない「夜明け(DAWN)」の時期を、広い視野を持って、たくさんの経験を重ねること。きっとあなたらしく描ける未来が待っています。
レポート:佐藤友美(特定非営利活動法人パラ・ラ・ムジカ)
写真:ならぶき りく