REPORT
『202X URBAN VISIONARY vol.2』ー都市開発におけるコンセプトを俯瞰するー
「100年に1度」といわれる前代未聞の勢いで開発が進む、東京をはじめとした大都市。浮かび上がっている特有の課題に対して、克服する手立てはあるのでしょうか。都市の姿を見つめる関係者が都市開発の事業者に問題を提起し、従来のあり方にとらわれない近未来のビジョンを描く「202X URBAN VISIONARY」。キックオフの舞台となった渋谷キャストから第2回目は虎ノ門ヒルズに会場を移し、熱い議論が繰り広げられました。
【今回登壇者一覧】
●齋藤精一氏(ライゾマティクス・アーキテクチャー主宰)
●豊田啓介氏(noiz共同主宰/gluon共同主宰)
●山本恵久氏(日経xTECH・日経アーキテクチュア編集委員)
●田中陽明氏(春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役/co-lab企画運営代表)
●杉山 央氏(森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部新領域企画部)
●金城敦彦氏(三菱地所株式会社 開発推進部 専任部長 エリアマネジメント推進室)
●雨宮克也氏(三井不動産株式会社 開発企画部開発企画グループ長兼環境創造グループ長)
●山口堪太郎氏(東急株式会社 都市創造本部 開発事業部)
※登壇者詳細プロフィール
「202X URBAN VISIONARY」のファシリテーターである田中陽明氏は「このトークセッションは、東京の再開発についての提言からはじまりました」と経緯を説明しました。前回の議論で、都市開発における先導的なマスタープラン不足の現状について課題が投げ込まれた内容を経て、第2回目となる今回は「都市開発におけるコンセプトを俯瞰する」をテーマとして開催されることに。会場を虎ノ門ヒルズへと移し、東急、森ビル、三菱地所、三井不動産などの開発事業者が集結。「各デベロッパーが垣根を超えて都市のビジョンを話し合うことで、東京の魅力が拡充してほしい」と田中氏はセッションの意義を強調しました。
まず全体のイントロダクションとして、齋藤精一氏から前回提示された課題と、今回のセッションで扱う内容について示されました。「vol.1では、マスタープラン型とプロセス型、街全体で機能性を担保することの可能性について話し合いました。大規模な開発が膨大な数で進められるなかで、どんどん街が均質化しているように感じます。同じような街をつくってお互いに戦うよりも、役割分担をして協力体制をつくって高めあったほうがいいのではないでしょうか。エリアごとに、テーマや思想、哲学、今までの実績や方程式があるはず。共創するためにやるべきこと、やれることは、いったい何なのかを今日はお話できればと思います」。建築家の豊田啓介氏は「業態を超えた視点でも、何ができるのかを伺えれば」と期待を寄せました。
●都市開発におけるコンセプト
モデレーターとして参加する山本恵久氏は、「都市再生特別措置法、国家戦略特区といった制度の下での開発では、容積率アップなどの優遇を受けるために都市に対する貢献を提案します。それを数多く列挙しようとすると、似たコンセプトの言葉が出そろってくる傾向があります」としつつ、前回の参加者である国土交通省が、これからのまちづくりの方向性として「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を掲げ、イノベーションの創出や人間中心の豊かな生活の実現を目指して新たな舵取りを始めていることを紹介。パブリック空間の扱い方や意識や公民連携の在り方についても意見交換がなされた前回を振り返りました。
デベロッパーからの発言のトップバッターとして、杉山 央氏は森ビルがこれからつくる新しい街の説明をしました。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」では、「モダン・アーバン・ビレッジ」のコンセプトのもと、緑に包まれ、人と人がつながる広場のような街を目指していることを紹介。「これからは人中心の開発が街にとって重要ということを、森ビルも考えています。これまでは建物の間に緑をつくる開発はありましたが、広場から考え、建物を後で決める視点で計画しています。具体的には、8.1万m2の敷地に多彩な都市機能を一体的に整備し、2.4万m2の緑地との融合を図ります。さらに、緑の大きな広場を中心に配置するために超高層タワーを建て、地上スペースを確保する計画です」と解説しました。
続いて金城敦彦氏は三菱地所について、「東京・丸の内のオフィス街をホームタウンのイメージでとらえています。仲通りというところでは『アーバン・テラス』として、語らったりくつろいだりと、コミュニケーションの場にする取り組みを継続しています。そしてこれは丸の内全体を貫くコンセプトと考えています」と説明。丸の内では大丸有のプラットフォームがあるのが特徴で、80を超える地権者と行政や企業が「協力して育てる」まちづくりを目指しているといいます。その際に「マスタープランを策定すると固定化して時代に合わなくなるので『ガイドライン』とし、社内でも再開発を『再構築』と位置づけ、常に考え直す姿勢をとっています。そして街を『オープン・イノベーション・フィールド』として、人の交流の舞台や実験場として使えるように、まちづくり協議会と連携しています」と取り組みを紹介しました。
次に雨宮克也氏は三井不動産が、2004年の「コレド日本橋」の開業を皮切りに官民地元一体で取組む「日本橋再生計画」の中で連続的な開発を推進していることを紹介しました。「日本橋は町人の街として発展してきた歴史や文化を踏まえて、『残しながら、蘇らせながら、創っていく』というコンセプトを掲げています。これはなかなか素敵な言い回しで、一見相互に矛盾しているようなまちづくりの要素のバランスを物語っています。今、ライフサイエンス領域の集積を強化する『産業創造』、容積を抑え路地を活用する『界隈創生』、水辺の再生を目指す『水都再生』、地域と共にある『地域共生』、そして若手クリエイターとコラボレーションする『共創のまちづくり』が始まっています。今後は日本橋が周辺や地方ともつながり、新しいノードを結節していく街でありたい」としました。
山口堪太郎氏は「現在複数のPJが進む渋谷再開発の肝は、100年間積みあがってきた駅周辺の都市基盤の課題解決、ストリートカルチャーのまち、歩いて楽しいまちのためのゲートウェイづくり。」と前置きした上で、「12年前に東京全体の都市力向上から逆算して渋谷区に掲げていただいたビジョンは『世界に開かれた生活文化の発信拠点』。我々はそれを『エンタテイメントシティSHIBUYA』というコンセプトに落とし、2012年のヒカリエ開業以降、2027年の全体完成まで一貫して取り組んでいます。まちの産業は、『クリエイティブコンテンツ産業』と定義し、再開発以外の路面も含め、多様な交流・創発・発信の場づくりを通じた産業育成を続けています。」と解説しました。
●エリアマネジメント的視点から、互いのノウハウを共有する
続くフリートークのトークセッションでは、エリアマネジメント的な視点からノウハウ共有の機会を持つことができないか、という投げかけから始まりました。以下、各登壇者の発言をまとめながら紹介します。
齋藤 現在の再開発では、同じ街でも開発業者が入り混じります。環境アセスメントや都市計画決定が出たときに互いの動きが分かるとは思いますが、事前に共有する機会はあるのでしょうか?
杉山 デベロッパー各社が集まって話す機会は、これまでありませんでした。公表される資料だけでなく、どのような想いを持ってつくられているかを聞くと、通じるところを感じますし、仲間意識が芽生えますね。
齋藤 街にとって、企業のインキュベーションは大きい役割と思います。ただ、東京全体また日本全体で国力を上げることが必要な現在、一つの街で囲い込むというより、重要なのはエリアマネジメントではないでしょうか。今日みなさんの活動を拝見し、マネジメントのノウハウを共有すればよいのに、と感じました。
金城 それは共有していると思います。囲い込みの概念はありませんし、他の自治体に掛け合うこともあります。できれば街に元気な企業がいて元気な人を呼んでほしいところですが、囲い込んでおくことはできません。企業に「ここで仕事をすればいい成果が出るのではないか」と思ってもらい、街をリードするような企業に来てもらうことがデベロッパーの仕事ではないでしょうか。例えば三菱地所では「三菱一号館美術館」を運営していますが、他のギャラリーなどと連携し、共通パスを発行するなどの取り組みをしています。集まる企業は「働くのに良い街にしていこう」という動きには、相乗りしやすいと思います。
齋藤 三井不動産はモールを含め、全国にさまざまな施設を持っています。1つのフォーマットでまとめて、全体にシェアすることはあるのでしょうか?
雨宮 オープンなイベントを開催するなど、共有化と効率化は進んでいると思います。個社のレベルではないですが、全国エリアマネジメントネットワークのような組織もできて参加するクリエイターが共通してくると、エリアを超えた情報のプラットフォームも形成しやすい環境ができてきたと感じています。ただ、エリアマネジメントは10あれば10通りがあります。地域特性や、お金の回し方、コストの負担の仕方、行政との進め方などが異なるためで、フォーマット化はなかなか難しいのではないでしょうか。
山本 前回「ポスト容積率」の話がありましたが、ハードのボリュームを再開発のインセンティブの中心に据える考え方では限界が来るはずです。例えばエリアマネジメントの段階で重要になるソフトの面の規制緩和などで誘導する手はあると思いますが、開発を申請する初期段階でソフト面の内容までは固められない、という課題はありますよね。
齋藤 いまやインセンティブで与えられた容積率も使い切れない話が出ていますし、既存のものをどうするのかという視点も必要とされています。そもそも容積がプラスアルファで欲しいわけではなく、税制優遇などに回してもらいたいというニーズもあるでしょう。
金城 そうですね。ただ、特区でありがたいと思ったのは、行政の評価が柔軟になってきた、例えば、路面にテナントを入れてストリートをつくることも評価されるようになったことです。それ以前は開発が「空地」を取ることで評価されていて、あれほど虚しいことはありませんでしたから。とはいえ現在の開発の担当者は、ほかとは違う取り組みを求められるので苦労しています。特区貢献としてMICEの運営組織を経営したりもしています。貢献評価でもらえるのはほぼ、容積だけで、容積増に対する初期投資のコスト増に対して、事業リスクは高まるので、地方都市では容積割り増しが必ずしも有り難くない状況です。こうした現状やニーズを行政に伝え、他の支援策、負担軽減や規制緩和の仕組みをつくることや、齋藤さんや豊田さんのようなクリエイターとビジョンを共有することは必要ですね。
豊田 自分は今いろんな立場で、建築と都市について他の業態の方々と対峙する機会が多くあります。そこで感じるのは、建築や都市に関わる人たちは「僕たちは何をもらえるのか」というスタンスで構えていることです。「今の社会に対して、自分たちはこんなことが提供できる」という視点が薄いように思うのです。開発者は、既存の商店や神社のような施設を潰さざるをえない状況もあるなかで、新たに生まれる価値を提示することです。あるプラットフォームができるとき、周囲の人たちにも提供できる価値がどのようなもので、社会にどう貢献できるのか。周辺に利益を生む仕組み、社会全体で回る仕組みを考えて発信すべきでしょう。
雨宮 エリアマネジメントが「どうつなぐか」という視点が重要です。開発とエリアマネジメントの効果が地域にあるということをもっと伝えていかなければなりませんね。それによって、地域と共にシティプライドが醸成できるという思いが各社ともあると思います。ただ、本来は世界中から来る人々が街にとってのステークホルダーとなりますが、都市計画の決定や開発のプロセスでの合意形成は、住民票のある人たちが中心となります。そのあたりがまちづくりの観点では若干のちぐはぐを生じさせているのかもしれません。
山口 4年前にやった渋谷区さんとのシンポジウムで、区長や地域の方と挙げたキーワードが「渋谷民」。暮らす方、
働く方、遊びに来る方、渋谷が好きな方、全部。その後の、まちのビジョンや指針づくりも渋谷民とのセッションも通じて作られていますが、それがシティプライドの醸成にも繋がれば。
齋藤 ビジョンをつくるときに重要なのは、建築家だと思うのです。街や建物をつくるというとき、商業的なところを把握し、市民の意見をまとめて、社会に対してどう貢献するかというジョイントは建築家がすべきだと思います。エリアマネジメントの課題があっても、質問を束ねてファシリテーションをしながらつくっていくネットワークが広がり、ムーブメントを起こしていけないでしょうか。
豊田 建築というものが支える道具や次元が広がっています。例えばUberは、タクシーという固定化したものの情報やニーズを再構築して、サービスを提供しました。扱えるレイヤーの次元が広がって情報に行った瞬間に、イノベーションが起こったのです。もう1周回ると、やはりモノの持つ力やエリアの特性などに再接合することになる。そのとき、情報的なところとの接続の仕方に、デベロッパーもコミットしなくてはならないでしょう。
杉山 社内に建築設計者は多くいますが、みんな苦労しています。ただ、議論を重ねると、やはり結果的に良いものができていると思います。不動産デベロッパーとしての課題は、用途の垣根です。働き方が変わるなかで施設用途の垣根はなくなり、駐車場は附置義務の台数さえ必要とされなくなっていくことが予想されます。このとき、デベロッパーは床を貸すだけでなく、サービスをつくりださなければ生き残っていけないでしょう。新しい時代に順応したビジネスやコンテンツづくりのチャレンジを続けていきたいと思います。
齋藤 田中さんは、クリエイター向けのオフィスシェアビジネスを早くからはじめました。その立場から見て、どのように感じておられますか?
田中 近年では、再開発のブランディング事業に声が掛かるようになりました。エリアマネジメントを含めたコワーキングスペースの運営の相談も受けており、ボトムアップが求められている実感があります。
齋藤 自分も開発事業者と複数関わっていますが、横断的に見えてくることがあります。豊田さんも含めて、私たちの見方や提案が公然と期待されてもいいのかもしれません。
豊田 NDA(守秘義務契約)がかかっているので比較と検討には至らないのですが、本来はオープンに共有できるといいですよね。例えば都市のデジタル化をどうするかというときに、フォーマットはどう共通させるのか。誰かがもう1つ大きな絵を描き、レイヤーを統一する必要があります。
齋藤 大きなガイドラインについては、建築家のネットワークによるビッグビジョンが必要なのだろうと感じています。
まだまだ議論の余地がありながらも、終了時間が差し迫ったために、いったん各自の総括が求められました。登壇者からは感想や気付きを含め、今回の議題に上がらなかったことも話されました。
杉山氏は「森ビルは文化芸術を街に入れることで、街の魅力を高めようとしてきました。日常と非日常が街には必要で、街はより豊かになります。これからAIなどが発展して人が単純労働から解放されるとき、人間らしさや人の可能性を知っていくことにアートが必要になっていくでしょう」と街のあり方を予測します。
金城氏は「日本の財産の一つに、商店街があると思います。商店街の定食屋やバーに足を運べる街になるよう、生活の部分でも接していかなければならないと個人的に思っています。また、三菱地所では竣工後60年を超える『大手町ビル』を現在リノベーションし、フィンテックやモノづくりを含め、スタートアップ企業が集まる拠点にするプロジェクトを進めています。やれることをコツコツやっていることを見ていただければと思います」としました。
雨宮氏は「街づくりを通してソーシャル・キャピタルをつくり出す、という自負はありますが、まだまだ多くの方に伝わっていない感触はあります。今後もしっかりと勉強し、アクションにつなげていく必要を強く感じました」と口にしました。
山口氏は、「渋谷で建築とデジタルが結びついたスタートアップがオフィスの機能を手掛けた例がありますが、
そういうボトムアップ部分と、今日のテーマだったビジョンづくりから降りていく部分、両方に広義のデザイン志向
が入って合流しうると思います。」とコメントしました。
田中氏は今回のまとめとして、「いわゆるコンセプトにはさまざまありますが、クリエイターにはデザインコンセプトだけでなく、事業コンセプトにも関われるようであってほしい。デベロッパーも、クリエイターが入れる状況を整えることも大きな役割だと思います」と期待を寄せました。
より良い街づくりのために、さらに具体的な仕組みづくりや取り組みが待たれます。この議論は継続し、次回のvol.3は今冬に開催する予定といいます。さらなる展開を楽しみにしましょう。