REPORT
建築家・落合守征受賞パーティ|世界で活躍するStrong characterが考える日本の美とは?
4/20、co-lab代官山と同じビル内にあるBird Daikanyamaにて、co-labメンバーであり建築家の落合守征さんのジャーマンデザインアワードの受賞記念パーティーが開催されました。
これまで国内外で数々の賞を受賞してきた落合さん。今回で受賞50回目となったジャーマンデザインアワードでのWINNER賞(銀賞に相当)受賞を祝福しつつ、落合さんには建築プロジェクトにかける想いや、海外の審査員に作品のどの要素が評価されているのか、ご自身の見解をお話ししていただきました。また、会の後半では国内外の建築誌・デザイン誌に寄稿されているジャーナリストの高橋正明さんをお迎えし、主宰である水辺総研の岩本唯史さん、co-lab主宰の田中含めたトークセッションもありました。イベントの様子の一部をレポートとしてお届けします。
【受賞者プロフィール】
落合守征(おちあいもりゆき)
株式会社落合守征デザインプロジェクト 代表取締役
落合守征デザインプロジェクトは建築・空間・プロダクトデザイン、ブランドデザインなど多様なデザイン活動を展開するデザインファームです。
近年では Restaurant & Bar Product Design Awards (イギリス)の国際審査員も務めるなど、国際アワードでの受賞や世界各国のメディアで紹介され、世界的に高い評価を受けています。
HP:http://www.moriyukiochiai.com/
【ゲストプロフィール】
高橋正明(たかはしまさあき)
オランダのインテリア雑誌「FRAME」、建築誌「MARK」のコントリビューターとして、日本のデザイン、アート、建築について取材・執筆を行い、20年以上海外に向けて発信を行う。ベルリン、ロンドン、ニューヨークへ留学し、商業雑誌の編集者などを経て、編集プロダクション「ブライズヘッド」(1996〜)を主宰。著書には『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』などがある。
【ジャーマンデザインアワードとは?】
ドイツ連邦議会の後援により1953年に設立されたドイツデザイン協議会が主催する国際的なデザイン賞で、世界で最も権威ある賞のひとつです。
世界各国の優れたデザインの中から、ドイツデザイン協議会の推薦を受けた作品のみが受賞候補(Nominee)と認められます。そのためノミネート自体が名誉とされ、その審査の厳しさから「賞の中の賞」と呼ばれています。
以下、受賞者である落合さんによる作品についてのプレゼンテーションの様子です。
・水をテーマとした「ARKHE beauty salon」
(落合さん)
世界最高峰のデザイン賞の一つであるドイツIFデザイン賞の金賞を受賞したプロジェクトです。クライアントの要望である水をテーマとした美容院で、空間をどのように表現するか考え、「生命の源である水。水の流れ、髪の流れ、から瑞々しい生命力のある空間に」と考え始め、また、海外展開も考えられている日本の企業様ですので、日本の精神性や美意識を封じ込めようと思いました。そこで、水の現象性と、着物をモチーフにするアイディアが浮かんできました。素材は水の反射光をイメージしたアルミ。反物とほぼ同じ400mmの幅で用意し、これを天井に敷き詰めることで空間を構成しています。着物や折り紙が一枚のシートから多様な機能や要求を満たすように、金属波のシートを、カットエリアでは穏やかな流れで高さのあるスペース、中央通路エリアは激しい流れで高さが変化するスペース、待合エリアは高さの低い落ち着いたスペースにするなど、そのエリアに必要な機能や雰囲気を満たしながら自在に変化させる事で、空間を緻密に創り上げています。
審査のステイトメントでは「Japanese beauty」と評されました。日本文化の特徴である「最小限の素材で多様な要求に応える」という考え方が評価されたように思います。
このプロジェクトを契機にして、私の中にある日本文化、風土がどのように創作活動に影響を与えたかということを、深く考えるようになりました。
ヨーロッパは論理的で構築的な文化。多民族であるので論理的、合理的に他人を納得させるかが重要であるそうです。建造物としても、どんな風に積み上げゴージャスに見せて、どれだけ神に近づいたかが大切とされている、と落合さんはおっしゃいます。
一方、日本はアニミズムの考え方があり、自然に親しみや愛着を感じる傾向があり、自然に対する感受性が異なるように思えるとのこと。
各賞の授賞式に訪れた際、審査員の方々に「どこに興味を持ったのか?」という質問をすると、一つのシンプルな要素で空間を作る精神が面白い、という答えをよく返ってくるそうです。禅の考え方を体現しているという解釈もあるとのこと。禅の考えの延長に、自然と一体化するという考え方があり、落合さん自身も自然に身を置きながら、プロジェクトの構想に思いをはせる瞬間が非常に大切、と話してくれました。
・今回、ジャーマンデザインアワード受賞のプロジェクト「Waterscape / Memory of Spring」
(落合さん)
今回ジャーマンデザインアワードで評価をいただいたプロジェクトは、箱根にある植物園だったところを多目的なスペースにリニューアルするというものです。30年くらい前にできた建物で、中心部に本州最大のガジュマルの木が立っていました。その存在が街の人にとっての誇りであり、また、その木の根元には雨が降ると泉が出現するような環境でした。
そこで、床全体に新たにコンクリートを打設し、ガジュマルが存在したドームの中心に八角形状の階段広場を設け、最下部には、植物園の泉の記憶と箱根の名所である芦ノ湖の水面を意識した、深い静けさと神秘を湛える泉のような透明樹脂の床を広げました。創建当時の記憶を封じ込めながら、美術館の活動に柔軟に対応し、さまざまな活動を誘発するような場所として。
階段広場は、飲食に必要な座席、音楽会や演劇などの公演では客席や舞台として、企画展示では展示台に利用され、多目的な場として機能し、記憶を孕む泉の揺らめく動きや変化の様相と、そこを中心に日々変化する多目的な使われ方の移ろいゆく変化のイメージの重層が、この場所に相応しいと考えました。
記憶を封じ込めるというプロジェクトのコンセプトを海外の審査員の方々は読み取ってくれました。
受賞式のパーティーの時に、審査員の方々は私のことを、「独特の自然に対する感性であり、そこがStrong character」という風にコメントしてくれました。完成度や見た目の美しさよりも、その人が人生を通して何を訴えているのか、その人自身の存在価値を考えてプロジェクトを選出しているように思います。育ちも違う、価値観も違う、生きた方も違う中で、その人に興味を持つということは、Strong characterを持った人にスポットが当たるということ。本当にありがたいと思っています。
国際的な評価を受けるには、マーケティング的な思考のみならず(日本ではこの傾向に偏る事が多い)、こういった自身のアイデンティティと真剣に向き合う姿勢も重要で、よりグローバルな視野で自身のクリエイティブの質を高めていくことを考えています。
4/18に世界最大規模の国際賞A’ Design Award(イタリア)の受賞が決まった岡山県美星町の町おこしのプロジェクト「星庵 Constellation of Stargazing Tea Rooms」。星空観察の聖地と言われる岡山県・美星町に設置する「星や自然と、人とを繋ぐ装置/茶室」として、星空や風景を眺めるための茶室群の計画。
落合さんのプレゼンテーションを踏まえて、高橋正明さん、水辺総研・岩本唯史さん、co-lab田中より感想を伺いました。
(高橋さん)
「Strong character」というのは対象に対して全身全霊で没入して、神がかり的に没入しているということなのかもしれないですね。プロジェクトに対してフィロソフィーがあって、そういうものを海外は大切にしているので、評価があるのだと思う。日本のデザイン界はビジュアルを評価する傾向がありますからね。グローバルに活躍してくださると良いと思いました。
(岩本さん)
僕も同じ早稲田大学出身ですが、まるっきり性格が反対。僕は建築を構造的に作っていて、構築的に作っていった先にある削ぎ落とされたデザインとかが好きで、その中にコンテクストをそういう風に入れていくかを考えています。
なので、没入して自分の信じたものを壁にぶつけるように、自分も痛がりながら制作するスタイルを非常に新鮮に感じています。
(田中)
改めて作品を通して見ると、アートワークですよね。落合くんはアーティストと言われると違和感があるかもしれないけれど、現代美術的なアーティストだと思いました。西洋では、週末におばあちゃんが孫を連れて教会へ行ってその帰りに現代美術館へ寄る。神様の化身である現代美術のアーティストの作品を通して、神様の考え方を感じるということが行われています。そういう意味での現代アーティストに近いものを感じるのですよね。だから世界中のアワードの賞にも輝いているのではないかと思います。
高橋さんは、世界的にメジャーである落合くんのような人が、日本において今後どう活動していくのが良いと思いますか?
(高橋さん)
海外で評価されているなら、そのスタイルを変えなくても良いと思うんですよね。理解してくれる人が欧米人に多い状況というのは、よくわかります。なので海外にベースを置いて、日本との2拠点で活動するという方法もありなのではないかと思います。
(岩本さん)
日本の国力が落ちるのは目に見えていて、将来は韓国と同じくらいの人口になってしまう。落合さんのように今世界に評価されている人々から、学ぶことは今後も多いと思いましたね。
(田中)
シェアオフィス形態なので、同じ場にいるメンバー同士が補完しあえるような環境が望ましいと思っています。お互いの強みが影響しあって、それぞれが育つことができれば良いですよね。
メンバー個人にスポットを当てた今回のイベント。co-labとしても初の試みとなりましたが、普段知ることのない落合さんの理念や創造性について触れ、多くの驚きと発見がありました。co-labとしても、クリエイターサポートの一環として、このような機会を増やしていきたいです。最後に、終了後落合さんにいただいたコメントを掲載します。
「日頃より、自然を眺め、文明と人間の生命力の根源を探ることから、創造のエネルギーを得ています。文明の発展は、人間を自然から隔てる方向へと進んで来たのは確かな事であり、しかしながら、同時に、人間の創造してきた文明社会はもともと大自然との関わりの中で営まれたものでもあります。
自然は外の世界であるばかりでなく、人間の内なる奥底にも流れ続けるものでもあると考えています。今後も、自身の身体に染み込んだ自然美の構造を遡りながら思考し、歩みを進めてまいります。」
(コミュニティ・ファシリテーター:坂本)