孫正義育英財団×co-lab コラボ企画第二弾「ファシリテート!クリエイティビティ vol.2」

天才アーティストにクラウドファンディングを教えると生み出すもの

孫正義育英財団のギフテッドとクリエイターがクロストークすると、何が生まれるのか――。刺激を与え合い、創造的なコラボレーションを生みだし続けてきたクリエイターの集積地co-labと孫正義育英財団のコラボ第2弾。

高い志と異能を持つ若者に才能を開花できる環境を提供し、未来を創る人材を支援する。そうして人類の未来を明るくするために設立されたのが、孫正義育英財団です。

渋谷キャスト内でのインナーブランディング企画として、co-labが孫正義育英財団とのコラボプロジェクトをやる上で最も有意義ではないかと提案し、昨年初めて実現しました。

co-labを運営する春蒔プロジェクトの田中陽明と生田目一馬が企画コーディネーターを務め、ソーシャルデザインやインフォグラフィックスを得意とするco-lab二子玉川のメンバーcocoroéが、2人の対話をわかりやすく見える化。インプットからアウトプットまでのすべてを、孫正義育英財団とco-labで創り上げていきます。

対談を前に春蒔プロジェクト田中が、「若きギフテッドに備わっているクリエイティブな思想と、発明品などを商品化するクラウドファンディングが持つものを作っていく知見が合わさると何が生まれるのか。アイデアや思想を商品化や新しい形で表現できるのでは? 今回のコラボはそんなワクワクからスタートした、答えを探すことを目的としないブレスト対談プロジェクトです」と、あえてトークテーマを定めない狙いを伝えました。

才能を促進し、天才たちの新たな一面を発見していくブレスト対談「ファシリテート!クリエイティビティ」。今回席についてもらったのは、孫正義育英財団生でアーティストの大西拓磨さんと、モール型クラウドファンディング「GREEN FUNDING」の代表・沼田健彦さんです。専門分野も年齢もまったく違う2人の対話から生まれるものとは?

アイデアを求める会社は多い

沼田健彦(以下、沼田さん):私が運営している「GREEN FUNDING」は、“未来を企画する”クラウドファンディング(以下、クラファン)です。ガジェットなどが中心なものの使われ方は多岐にわたっていて、映画を作りたい、個展を開きたいなど、制作物を作るためにプロジェクトを立ち上げるケースもあります。最近の傾向は、大きな会社が既存ラインナップにない新商品を作る際に、市場の反応を見たいと実施するケースも増えてきました。

大西拓磨(以下、大西さん):単純にECサイトみたいになってきているんですか?

沼田さん:そうですね。企業の生産物と個人の創作を比較するのは難しいですが、こういう仕組みが商売に使えるぞと捉えられると、企業が目を付けるのは当然だと思います。大西さんは、クラファンに興味は?

大西さん:今住んでいるシェアハウスのオーナーがクラファンをすごく好きな人で、すごいなとは思います。でも、クラファンをするのも、けっこう大変じゃないですか。もっと気軽にできるようなインターフェースや、ハードルを下げる機会があればいいなと思っています。

沼田さん:例えばクラファンをやるなら、どんなアイデアがありますか?

大西さん:アイデアはたくさんまとめています。プロダクトっぽいものでいうと、「風羽(かざはね)」。短冊形の端材を蝶番で連ねた、可変型のランプシェードです。オブジェのような造形を楽しめるのと同時に、空間を演出する光の印象を自在に操作できますし、風を受けてモビールのように揺らいで、光の演出も変えながら楽しむこともできます。

沼田さん:おぉ、なるほど。

大西さん:「round rocker」は、前後ではなくて、円状に揺れるロッキングチェアです。どちらもコンペ用に考えたのですが、どこにも引っかからなかったので、これ以上進めていません。作りたいと考えてくれる会社が現れてくれれば、こういうアイデアも形にできたりするのかなと思って残してあるんです。

沼田さん:面白いですね。

大西さん:あとは、日本とブラジルみたいに地球の真裏となる場所にディスプレイとカメラを地中に埋めて「穴」の向こう側が見えるようにしたインスタレーション。そこらへんの空き地にポンッとあったら、新しい体験ができないかなと考えました。

沼田さん:個人的にはKickstarterというサービスが面白いと思っていて、例えば、タイムズスクエアにある看板を全部アートで埋めるという壮大なプレゼンがありました。完全に実現はできなかったんですけどね。ここにはクリエイターやクラフトワーカー、尖ったガジェットを作りたい人などが考えた面白いプロジェクトが多い。大西さんみたいにセンスのある人なら、グローバルのチャレンジっていうのも面白いかなと思うんですよ。

大西さん:ECサイトをやっていたこともあって、1年に1回めくるカレンダー、1世紀に1回めくるカレンダー、反時計回りに回る時計とかナンセンスなものを作って、売ってました。でも、面倒くさくなって、やめちゃったんです。考え事をするのは好きなんですけど、実際に手を動かして、同じことを繰り返しやるのは苦手で。一人で実装して、販売するのはすごく難しいですね。

沼田さん:クラファンで365日分が一枚にまとまっているカレンダーというのもありましたね。

大西さん:それ、いいですね。

沼田さん:そうしたアイデアを具現化してくれる動きのいい会社さんと組めるといいかもしれないですね。最近、面白かった事例は、魚の柄やきらめき、触り心地まで、テクスチャを再現した「さかなかるた」。印刷会社さんが起こしたプロジェクトです。

大西さん:すごく面白いですね。欲しいです。

沼田さん:クラファンも、少しずつアイデアそのものでお金を集めていくという段階から、それをパッケージ化していくものが増えてきているんです。だから、アイデアを求めている会社は多いですよ。よくある相談が、例えば、「うちの技術はすごいんです。クラファンをやりたいんですが、何を作ったらいいですかね?」といったもの。

大西さん:アイデアを出すだけなら、興味はあります。そんな楽な仕事ないですよね。

沼田さん:「さかなかるた」も、印刷は印刷会社さんがやっていますが、アイデアの元を考えたのは別のクリエイティブチームと聞いています。

大西さん:個人的には、アイデアに全然価値はなくて、実際にものを作るメーカーさんの方が偉いと思っているんです。考え事をするのは誰でもできるし、実際、自分のアイデアなんて、どこかの誰かが既に思いついているかもしれない。それよりも、実際にものを作っていくところのハードルの方が絶対に高い。だから、それができる組織や人をリスペクトしています。

アイデアの源泉となる「問い」「技術」「時代」

大西さん:アイデアを出すには、問題が必要だったりするんですよね。例えば、コンペがあったら、テーマや条件があって、こういう家具を作ってくださいという問題がある。そういうのがあって、初めてアイデアは出てくるんです。

沼田さん:クラファンでも、「問い」みたいなものは大事です。例えば、自転車に乗っているときの不便。ある人が抱えている具体的な問題を解決できる製品が、クラファンとはとても相性がいいんです。自転車に乗りながら一眼レフを肩にかけると不安定という課題があって、ゴムみたいなピタッとくるストラップを作ったら、けっこう売れました。

大西さん:アイデアが思いついたら教えてください、って言われても、絶対に考えないじゃないですか。

沼田さん:そうですよね。あとは、「技術」を見にいくというのもありますよね。こういう技術を作ったのだけど、そこから何を作ったらいいでしょう、みたいな相談もよくあるんですよ。

大西さん:技術に限らず、事例をいっぱい見るのも大事だと思っています。ゼロからイチを作るってよく言われますが、それは間違いだと思っていて。創作って100とか1000とか10000くらいから1を作るっていう作業なんです。僕がものを作るときは、先行研究を制覇して、その中で一歩突き抜けた新しいことを考えるんです。

沼田さん:100から101みたいな原始的なアイデアはときどきありますが、クラファンでも大半は10万から10万1みたいなスペックアップ製品が多いんですよ。

大西さん:ある日、歩いていてアイデアが突然思い浮かぶってことはありません。生活をしていて、気になることの集積で新しいことが生まれてくるんです。それでいうと、最近、キーボードの配置を変えています。僕のイシューはブラインドタッチができないことなので。

沼田さん:PC、スマホ周りは、基本的にクラファンと相性がいいんですよ。こういう配列の話なら、クラファンのネタにはなります。

大西さん:ローマ字を100万字くらい解析して、勝手に考えて実装したものですし、他にもやっている人もいます。それに、これはお金を取る気はないのでネタにはならないかもしれませんね。でも、日本語でブライドタッチができない人のオプションにはなるのかなと。

沼田さん:そんな製品が意外と当たる。誰にも思いつかないことをやったからといって、みんなが評価してくれるわけではないんです。クラファンは、やっぱり出してみないとわからない。それが面白いところでもあります。

大西さん:クラファンをやるなら、他にも何かヒントってありますか?

沼田さん:あとは「時代」でしょうか。テクノロジーとライフスタイルが合致したタイミング。例えば、あるときにワイヤレスの技術が上がって、それに類する製品がものすごく増えました。有線ではなくなったことで、いろいろな提案ができるようになったんです。そういうのが来る時期が必ずあります。技術熟練度なのか、トレンドなのか。時期を捉えるのはとても大事ですね。

創造と技術をつなげるアイデアプールが欲しい

大西さん:僕の課題は、実装力がなさすぎて、ハードはアイデア止まりになってしまうから、ソフトばっかりやっていることです。無意識にそういう制限が生まれてきていて、最近気になっていて。良くないなと。

沼田さん:大西さんって、知的好奇心が高い人だと思うので、製品なのかクイズなのかは分からないですが、すごく難しいルールとか、一筋縄でいかないものを作るだけでも、今のSNSとの相性の良さはあるんじゃないかな。

大西さん:パズルとか作ってますね。

沼田さん:GREEN FUNDINGではないのですが、最近、コトブキヤというおもちゃ会社がクラファンをやっているんです。ハンドモデルを精巧に再現して作っていて、これがけっこう売れるんです。大人向けの面白いものって、一定のニーズがあるんですよね。

大西さん:ハードのものも、誰かが代わりに作ってくれる可能性を残そうと思って、アイデアを形に残していくのは自分の義務だと思っています。でも、そこから先がなかなか進まないんですよね。

沼田さん:例えばアウトドアメーカーは意欲的です。さっき仰っていた組み立て式のランプシェードも、アウトドア用にカスタマイズしていけば、いい形で組めるかもしれませんよ。

大西さん:アイデアプールが欲しいんですよね。自分がアイデアを投げて、作りたいという人が現れれば作ってもらう。もし、その際に課題が発生したら、僕はコンセプト面からアドバイスができると思うんです。そういうコンタクトが取れる仕組みがあったらいいなって。

沼田さん:アイデアプールはいいですね。そういうマッチングできる場があるのは、企業側としてもうれしいんじゃないでしょうか。

大西さん:気軽にアイデアをぶちまけられる場所があったら、それだけでいいんです。思いついたことをずっと持っていてもモヤモヤするし、かといって人にプレゼンするまでに起こすのもハードルが高い。今回は、クラファンを運営する沼田さんとコンタクトを取ることが一番のミッションだと思ってきました。クラファンをやりたくなったら、ぜひ相談させてください。

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クリエイターのアイデアを集積する箱を作り、そこに詰まった種を企業が自由に使えるようになれば、技術とアイデアがうまくマッチングされる場が生まれる可能性があります。今回の対談で見えてきたのは、新しいプロダクトやアートのアイデアとものづくりの制作者をつなぐ場の必要性でした。

対談の終わりがけに、沼田さんは「ラップトップ用の携帯ケース」が個人的に欲しいと話しました。探してもなかなか求めているものがないのだと言います。こうした一個人の「問い」から、アイデアは生まれてきます。大西さんはうなずきながら静かに話を聞いていましたが、既に頭の中にはアイデアの種が生まれていたかもしれません。

孫正義育英財団にはロボット工学、化学、医学などさまざまな分野の未来をリードする、多くの若き異能がいます。ファシリテート!クリエイティビティは、まだまだ続きます!

―― Profile ――

大西拓磨
おおにし・たくま●1999年生まれ。東京藝術大学建築科中退後、生活保護、ホームレスを経て孫正義育英財団4期生。2019年、4つのハイレンジIQテストの世界記録を更新。2020年、半生を綴ったネット記事「僕のしょうもない人生を紹介します」が170万PVを超える反響を呼ぶ。近年はWeb上で遊べる体験型コンテンツを自主制作し、主な作品にアート系IQパズル「欠片」、3Dなぞなぞ「SPACE」、フリーゲーム「テトリオ」などがある。

沼田健彦
ぬまた・たけひこ●1981年生まれ。GREEN FUNDING代表(株式会社ワンモア代表取締役CEO)
東京大学経済学部卒業後、2004年電通に入社。営業職に従事し同期最年少本部長賞受賞。2009年フェアトレードサッカーボールを作るイミオ社に入社、取締役をつとめる。
2011年「未来を企画する会社」ワンモアを創業。2015年にCCC(TSUTAYA)グループ入りし、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」を運営。現在まで4100超のプロジェクトに総計115億円以上の資金調達をサポートしている。

クレジット
企画協力:公益財団法人 孫正義育英財団
企画コーディネート:春蒔プロジェクト 田中陽明、生田目一馬
インフォグラフィック:cocoroé 田中美帆、渡辺祐亮
文:中村大輔
写真:古屋和臣

特別協力:渋谷キャスト